甘利経済再生相の辞任を礼賛するブラジルメディアの真意は?

記者会見する甘利経済再生相=15年11月16日午前、内閣府 (共同)

記者会見する甘利経済再生相=15年11月16日午前、内閣府 (共同)

 有名な経済評論家カルロス・アルベルト・サルネンベルグが28日にCBNラジオ番組中、何度も楽しそうに「日本じゃ、たったの3万4千レアルの賄賂で財政政策の中心にいる大臣が辞職する。これがブラジルじゃあ、どうだ。日本の政治家に、もしスイス銀行の隠し口座が見つかったら、どうする。その恥を雪ぐには3回ぐらいハラキリしても死に切れないんじゃないか」と大笑いしていた。それを聞き、バカにされているような複雑な気分になった。ブラジルメディアは総じて「日本ではたった3万レアルの賄賂で大臣が辞める」こと自体を〃事件〃として扱って、当地の倫理なき現状にあてこすっている▼これは昨日付本面で《【共同】甘利明経済再生担当相(66)=衆院神奈川13区=は28日、週刊誌が報じた金銭授受問題の責任を取って辞任した。記者会見で、建設会社側から大臣室と地元事務所で現金計100万円を受け取ったと認め、秘書への監督責任にも言及した。(中略)国政への影響などを考慮し辞任を決めたと述べた》と報じた件だ▼たしかにブラジリアには、スイスの銀行が「彼の口座は存在する」と証明してきたのに、本人は「私が管理しているわけではない」と、しらばっくれて下院議長に居座る呆れた御仁がいる。甘利経済再生相はアベノミクスやTPP締結の中心人物であり、それが〃たった〃100万円の問題で辞職することがブラジル人にはコッケイに映る▼クーニャ下院議長がBTG銀行に有利になるように条文を書き換えた代わりに受け取ったと疑われる賄賂は4500万レアル(13億円)。ロベルト・コスタ被告(元石油公社供給部長)が2010~11年の間にスイスの口座でオデブレヒト社から受け取った横領金額は2300万ドル(約24億5千万円)と報じられた。つまり3桁も違う▼コスタ被告と同じく公務員だが、対照的な内容の〃横領記事〃として、日本ではこんなものもあった。《厚生労働省は19日、職業安定局の男性係長(44)が隣接する人事院の給湯室にあった冷蔵庫から缶ビール3本を盗んだとして、停職3カ月の懲戒処分にした。厚労省によると、係長は10日午後2時ごろ、人事院庁舎内の売店を利用した帰り、給湯室の冷蔵庫から缶ビールを盗んだ。人事院職員に見つかって取り押さえられ、警視庁丸の内署で事情聴取を受けた》(14年9月19日付共同)。これが記事になる国の〃潔癖〃さに感嘆すると同時に、百鬼夜行の西洋世界の現実からあまりに浮世離れしている気がした▼サルネンベルグは「たった100万円だったら、ブラジルの政治家は受け取らない。そんな少額ならバカにされたと感じて、賄賂としてはむしろ逆効果」ともコメント▼もちろん、「日本の政治家はそれだけ潔白」と反論できるし、実際に肯定的なブラジル人評論家もいる。だがサルネンベルグの言葉には、ユダヤ系的な〃トゲ〃というか、国家財政の行方を左右する者が「100万円」で足元を救われるのは不釣合いだという「世界の裏の常識」がある。賄賂に寛容すぎるブラジルの〃常識〃も異常だが、日本の潔白さも、「極端」という意味でどこか共通している▼もちろん不正はいけない。だが潔癖すぎるのも「温室の中の嵐」「平和ボケ」的な違和感が漂う。どこかガラパゴス的で、国際的な大物政治家が生まれる風土として不適当だ。あれだけグローバル化しているように見えて、日本国内の〃空気〃は今も十分にユニークだ。とはいえ「そのままでいてほしい」と願う部分も、正直言って自分の中にはある。我々のような在外日本人は、世界と日本国内のそんな「空気のズレ」を歯軋りしながら見ているしかないのだろう。(深)