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右奥がゴンサロさん、右手前がバーロスさん
右奥がゴンサロさん、右手前がバーロスさん

憩の園=〃旅立ち〃の充実感切り取る=『黄昏乃稔り』出版記念会=「齢九十、何から逃げる?」

 《酒はいつも、誰かから、何かから、現実そのものからの逃避。今、齢九十に手が届こうとしている。何から、どこへ逃げるというんだい?》(故竹山三郎)――そんな一つの〃境地〃が方々に記された日ポ両語の書籍『黄昏乃稔り 物語・写真・俳諧』の刊行記念パーティが12日夜、聖市のニッケイパラセホテルで行われた。
 著者ゴンサロ・ルイスさんと写真家ルイス・バーロスさんは、老人ホーム「憩の園」の入居者23人に2年間に渡って毎月話を聞き、人生の結晶のような言葉を書き留め、しゃべる表情を写真に切り取った。当日は在園者や職員、ボランティアら150人以上が集まり、刊行を喜んだ。
 老人介護や精神分析学に関心があったゴンサロさんは、「人生の意義深い出来事にまつわる、感情を伴う記憶を呼び起こし、何らかの方法で再び語る」プロジェクトを進める中、食品企業パンコから同園を対象にすることを薦められた。
 仲良し夫婦を象徴するこんな逸話も本に紹介されている。《夫と私は、魚を釣ったりお喋りをしたり、歩くのが大好きだった。あるとき、歩いて家を出て、岡を登って降りて、モジ・ダス・クルーゼスで何かの話題について話し始めて、ベルチオーガで話し終わった。海が眺め見えたときは、とっても可笑しかったわ》(井上ルルデス)
 救済会の吉安園子会長は「とっても良い本ができた。二人は毎月1、2回、憩の園を訪れて信頼を獲得し、たくさん聞いた在園者の人生の逸話を、俳句のようにほんのわずかな行数に結晶させた。23人のうち8人が取材中に亡くなりました。人生の実り、黄昏の時の心境、旅立っていく心の様子を見事に表現しています」と頷いた。
 本田泉(いずむ)専任理事は、健常者75人、半要介護者27人、要介護者48人の在園者の平均年齢は87・6歳、在園平均年数は7年、昨年一年間で16人が亡くなり、その半数以上が90歳だったことを報告した。
 これだけ要介護者がいる中で、大半が90歳以上で亡くなるという現状は、とても満ち足りた老後生活を送っている証拠であり、模範的な老人ホームといえる。そのような生活からにじみ出る人生の充実感、実りの感覚が、自然とこの本に表現されたようだ。
 同園の創立に深く関わった宮腰千葉太氏の長男の嫁・宮腰陽子さん(88、東京)は、「素晴らしい本ができて良かった」と喜んだ。本に登場する故シンマ・チヅカさんと親交の深い平塚テレーザさん(75、三世)は「これを読んで昔のことを思い出し、涙が出ました」という。
 職員のイアラ・ペレイラさん(42)は「9年間勤務しているが、この本の内容に感動した。すべてのメッセージが心を打つ。在園者ともっと話をしなくてはと思いました」と語った。10年勤務する職員のソニア・ペレイラさん(44)も「人生の哲学というか、学ぶべき内容が本にはある。我々自身の将来でもある」と語った。


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 『黄昏乃稔り』にはこんな一節も。在園者の大関まさみさん(100歳)は、ゴンサロさんから「初恋のことを覚えていますか?」「話したいですか」と尋ねられ、大笑いしながら《覚えているわよ、全部。忘れようがないわ。でも、いったい何のために話すの?》と返した。生き生きとした描写が冴える文章だ。同書の取り扱いは憩の園のみ。寄付者への御礼として進呈する予定。問い合わせは同園事務所(11・3208・7248)まで。

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