『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(96)

 これは、メジャーと契約して営農して来た生産者に共通する悔しさであろう。つまり、最初、メジャー側からウマイ話を持ちかけられて契約し、セレアイスを植えた。しばらくは好調に行った。
 が、彼らが巧みに生産者の営農規模を拡大させたため、全体の生産量が増え過ぎ、市況が落ちてしまった。
 気がついた時には、借金が膨れる一方。偶々、市況が回復しても、儲けは持っていかれる。残ったのは疲れた土地と中古の機械だけ――だったのである。
 現状を打開すべく、駒込家の場合、息子さんが土壌の改良、営農内容の転換に取り組んでいた。 2015年11月、電話で改めて訊いてみると、植付け面積を減らしているという。人件費や営農資材の値が上がっているためだ。
 (五章で触れた)遺伝子組換え種子、プランチオ・ジレットに関しては「大分、助かっている」ということであった。
 息子さんの試みについては、まだ時間がかかるようだ。
 右のメジャーについては、アグローノモで、長く土壌改良剤の生産販売を事業としてきた続木善夫氏(在サンパウロ市)が、早くから警鐘を鳴らしてきた。2014年には同趣旨のレポートを発表している。以下は、その一部である。

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 農家は潰れる、メジャーは栄える

 2000年代に入って数年、穀倉地帯の農家や組合は呻吟していた。農業融資を返済できず、その残高と利子が膨れ上がっていた。2005年、遂に政府は救済に乗り出し、その負債の支払いを全額据え置きにし、2010年から分割払いで支払えばよいようにした。5年の間に利益を蓄積させようとしたのである。しかし、現実には、その5年の間に、それだけの利益を上げたか、というと、答えはノーである。
 原因については、国際相場や旱魃などの外因を上げる意見が大多数だが、自分はそうではなく内因にあると思う。化学肥料、農薬、除草剤を使用しての単作大規模機械化農による地力の衰弱、生産性の低下、コストの上昇、採算の悪化がそれだ。
 2014年現在、主作物の大豆は高値を維持しているが、生産者の借金は未だ残っている。
 ブラジルの穀物生産は、増産に次ぐ増産を続けてきた。農家は大躍進、大儲けしたかの様に想像できるが、現実は全く逆で、儲けたのはメジャーで、生産者の手元には借金だけが残り、増えている。(以上)

 やはりカナと出稼ぎで……

 セレアイスの他、カナも入って来た。小農は土地をウジーナに貸した。良い土地なら、年間1アルケール2千レアイスくらいになった。そこで自分の土地だけでなく、古いパストを買って、手入れをし、貸して稼いだ人もいた(一住民によれば、ウジーナの支払い遅延問題は、ここでは聞かないという)。
 日本人そして日系人の中からは、日本への出稼ぎが大量に出たことも、他所と変わらなかった。
 カナと出稼ぎのおかげで経済的にゆとりが出、大学へ進む若者が多くなった。親の遺産で新しい家や車を買う若者もいた。
 近年、マリンガーは勢いよく人口が増えている。1994年24万人、2000年35万人、2015年40万人という具合だ。相応に経済活動が拡大しているということであろう。
 日系人は、その血が入っている者も含めれば、7%という。2万8千人くらいである。ロンドリーナより多いかもしれない。
 農業者の比率は10%余という。殆どが町に住んでの通い百姓である。