「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(21)

「近くにブラジルレストランがあっていいですね」
 なんて言わなくてよかったと思いながら、続けて聞いてみた。
「でも、彼女は、会社を辞めてどうする気だったんですかね」
「きっと、週末の稼ぎだけでは足りなかったのでしょう。ブラジルの会社でOLをしているより、手っ取り早く稼げる仕事に専念した方がいいと思ったのかもしれません。日本では、若くて綺麗な人が水商売すれば、ブラジルよりはるかに稼げますから」
「なるほど。で、彼女は必要とする金を稼げたんですかね」
「どれだけ稼いだのかは知りませんが・・・、ただ、研修中に会社を辞める場合には、事前の契約で研修経費の全額を会社に返すことになっていましたが、彼女はサンパウロに帰ってから、本社で一括返済したそうです。住宅ローンの方も片付けたみたいですし、きっと、相当稼いでいたのでしょう。会社を辞めても、じきに滞在ビザの有効期限が切れてしまうのではと心配もしましたが・・・」
 支店長の話を聞き終え、情報の提供についてお礼をし、「今度皆さんをブラジル料理に招待しますよ!」とか調子のいい挨拶をして支店を出た。天気がいいので青山まで歩いて帰ることにした。
 渋谷の街にたむろするコギャルたちを眺めながらぶらぶらしていると、リカルド田中がケータイに電話してきた。彼の職場は休憩時間に入ったらしい。なぜかケータイの向こうから賑やかな音楽が聞こえてくる。
「今度の週末ですが、日曜日は用が出来たので、土曜日の夕方にお伺いしてもよろしいでしょうか」
 私は、毎日が日曜日のような生活をしているので、もちろんOKだ。
 それにしても、リカルドの日曜日の用とはなんだろう。ちょっと気になるな。

【第11話】

 その週の土曜日の夕方、約束どおりリカルド田中が事務所にやってきた。2週間前に初めて会った時より、いくらか元気そうだ。 
「週末のこんな時間にお邪魔してすみません」
「いや、お邪魔どころかありがたいよ。君が来なければ、一人ぼっちの週末だからね。ところで、明日は何か用事ができたとか言ってたね」
「大した用ではないです。実は、この間の日曜日に近所を散歩していたら、公園のグラウンドから子供たちの元気な声が聞こえるので見に行くと、年配の人が、日本人とブラジル人の小学生にサッカーを教えていました。僕も小さい頃は、外人の子供に交じってサッカーをして遊んでいましたから、面白くてそばで見ていました」
「ほんと! 君がサッカーを? 昔はそんな体型してなかったんだろうな」
「指導している方はポルトガル語ができないので、おせっかいかなと思いましたが、日本語で言われることをブラジル人の子供に通訳してあげました。そうしたら、よかったら練習に参加しないかと誘われて・・・、昔を思い出して、ドリブルとかパスとか、調子に乗ってシュートのやり方までやって見せたら、子供たちがすごく喜んでくれました。でも、久しぶりに運動して、三日間ぐらい足が痛かったです。次の日曜日もぜひと頼まれたので、明日、また練習のお手伝いをすることにしました」
「そりゃいいや。子供たちにとっては、サッカーの本場からスーパーヒーローの登場だ。まあ、がんばってよ。で、今夜はどこに行こうか」