「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(35)

「いやー、実にタイミングがいいよ。今、例の移住100周年の準備会合の会場にいるんだが、たまたま、お隣のパラナ州から来てる奴が、その有機農業協会とかいうとこの理事をしてるって言うんで、聞いてみたよ。木村さんのことは知ってた。それから、アナ・バロスという女。その協会の職員だったそうだ。今年の6月に辞めて、今、サンパウロにいるらしい。これから会議が始まるから、詳しくはあとでメールするから・・・」

【第17話】
 次の日曜日の朝、私は中古で手に入れた日産・サニーを運転して群馬に出かけた。日本では製造中止になっているサニーは、南米では「セントラ」とか呼ばれ、その経済性から最も人気のある大衆車のひとつだ。
 首都高速から東北自動車道に入ると、『木村さんとアナは、かつていい仲だったらしい』という、セルジオ金城からのメールの一文が頭に浮かんだ。
 アナが、かつて木村氏の恋人だったとすると・・・。
 いろんなことを考えながら館林インターを降り、国道354号線を高崎方面に直進しているうちに、ポルトガル語やスペイン語の看板がぽつぽつと見えはじめた。リカルドの住む工業団地はすぐそこだ。
 日曜日で道が空いていたため、予定の時間より早く、待ち合わせ場所の日系人が経営するスーパーに着いた。そこにも木村屋コーヒーの自動販売機が置かれていた。
      
 コーヒーを飲みながら待っていると、約束の午後1時ちょうどにリカルドが現れた。時間の正確さは「日本人」並みだ。
「今日はわざわざすみません」
「気にしないでいいよ。好きで来たんだから。この町に来ると、何か、また南米に行ったような気分になるよ」
 二人とも腹が減っていたので、近くのブラジル料理のレストランに入った。中はほぼ満員だったが、誰もこちらに視線を向けない。彼らも私たちと同じく「外人」らしいと思いきや、店の中ほどの席に座っている家族連れらしいグループがこちらを見ている。
「あれっ、例のフリーター君ですよ。今日は、東京に踊りに行かなかったのかな」
 そう言えば、そのグループの席に、一人だけ日本人らしい若者がいる。長年の経験と勘から、雰囲気だけで日系人でないことがわかる。あとのメンバーは家族で、日系人の父親、イタリア系らしいブラジル人の母親、中学生くらいの男の子。フリーター君の隣には、なぜか、かわいい高校生くらいのガロータ(女の子)が座っている。
 「ひょっとして?」と思ったところで、リカルドが、まずフリーター君を紹介してくれた。
「はじめまして、○○と申します。田中さんにはいつもお世話になっています」
 名前はよく聞き取れなかったが、立ち上がって丁寧に挨拶をし、年上の同僚を立てるところは、そこらの若者よりよっぽど礼儀正しい。
 引きこもりどころか、こいつは結構まともなヤツじゃないかと思いつつ、続けて立ち上がったガロータに、南米流に頬を付け合う挨拶をしたとたん、彼女の全身から発散されるフェロモンにあてられ、思わず目まいがした。
 上着を脱いで、袖なしTシャツにGパンの気取らない格好をしたガロータは、アドリアーナという名前で、17歳。その町にある、ブラジル人向けの高校に通っているらしい。