「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(36)

 かわいい笑顔とすらりと伸びた手足は、健康的で爽やかなイメージそのもの。この年頃の女の子は、こうじゃなくちゃいけない。この間、渋谷の街で見た、やけに短いスカートをはき、パンツを見せながら地べたに座っていた、不健康で退廃的なイメージの日本の女子高生たちとは大違いだ。
 続いて、ガロータの両親に挨拶。初めて会っただけで、子供の教育としつけをきちんとしている夫婦だと感じた。
 男も女も、恋することを生きがいにしている南米だが、カトリックの影響もあって、年ごろの娘を厳しくしつける家庭も意外に多い。娘に男友達ができた時は、しばらくは二人だけで外出させず、家族の誰かが「監視役」でついて行くような習慣も残っている。
「彼、ガロータに会ってから、ずいぶん変わりましたよ。自分から挨拶したり、話したりするようになりましたから」
「フリーター君、自分の周りに、心を開いて付き合える仲間が欲しかったんじゃないか。そんなところに、たまたま現れたのが、日本人じゃなくて、ブラジルから来たガロータだったわけだ」
 一番奥のテーブルに座って、自分でもよく分からないようなことを言っていると、店の日系人オーナーが注文を取りにやって来た。
 私は、せっかく来たので、ブラジルの代表的な料理フェジョアーダを注文した。フェジョンという黒豆と豚肉を長時間煮込んで、白いご飯に混ぜて食べる料理だ。
 リカルドは、若いのと、午前中サッカーをしてエネルギーを使ったので、シュラスコ(ブラジル風焼き肉)の盛り合わせを注文した。
 飲み物は、私は車で来たのでガラナ(ブラジルで人気の炭酸飲料)を、リカルドはブラジルの代表的な銘柄である「ブラーマ」のビールを頼んだ。
 飲み物が来たところで、例によって「サウージ(乾杯)!」し、雑談を続けた。
「週末は、サッカーを教えたり、楽しそうだね」
「おかげさまで。あっ、それから、昨日の午後は、サンバの練習をしましたよ」
「また、何で?」
「来月の3日は『文化の日』とかいって、休みらしいですが、いつもサッカーをしているところで、ブラジルの文化を紹介するお祭りが開かれるんです。日系人の仲間から、一緒にサンバを踊ってくれって頼まれました。会社の日本人の上司の人も招待してるんですが、来てくれるかどうか・・・」
「へー、リカルドがサンバをね?」
「僕も、一応ブラジル人ですから」
「おっと、そうだったな」
「それから、フリーター君とガロータも、ステージでヒップホップを踊ります」
「そりゃ、あんまりブラジルらしくないな」
「ジュリオさん、ちょっと古いですよ。ガロータに言わせると、ボサノバとかサンバというのは昔のブラジルのイメージで、今のブラジルの若者は、もっと現代的でポピュラーな音楽が好きなんです」
「なるほど。そう言えば、日本でも、若者の間では、演歌や歌謡曲なんかより、Jポップとかラップとかいうのが流行っているみたいだね」
「そうなんです。今では、日本の若者もブラジルの若者も、同じような音楽を聴いて楽しんでるんです」
「要するに、文化のグローバル化ってことだな・・・」
 偉そうに文化論を語っているうちに、メイン料理が出てきて、二人とも、いよいよ本題に入る気になった。
「では、ジュリオさん、お話を聞かせていただきますか」