「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(39)

「そりゃ、たぶん嘘じゃないよ。偽装結婚した時はともかく、日本に来てからは、カロリーナも君のことを、本当の夫みたいに頼りにしてたと思うよ。たぶん、彼女は、君みたいな男と『正式に』結婚して、できれば子供も産んで、平凡でもいいから家族が仲良く暮らす家庭を作りたかったんじゃないか。今、日曜日に一緒に料理をして楽しかったって言ったよね。私は、人生の『幸せ』って、そんなものじゃないかと思うよ。金とか社会的な地位を求めても幸せにはなれないけど、そんなものを求めないと、幸せなんて、意外と身近なところにあるって気づくんだよな・・・」
 その日は、酒を飲んでいないのに、悪い癖で、また偉そうなことをうそぶいていた。純真で人を疑わないリカルドは、素直に聞いてくれて、納得したような顔をした。
「ところで、ペドロという子の母親が、私の『妻』、つまり死んだカロリーナだとして、父親が『ケン・キムラ』という人だとしたら、その人は今どこにいるのでしょう。それから、カロリーナが、すごいリスクを冒してまで、また日本に来た理由や、なんであんな死に方をしたかについては、今だに分かりません」
「実は、そのキムラっていう男については、100パーセントじゃないが、かなり目星が付いてるよ。まあ、これはまさに偶然中の偶然だったけど・・・。今週、もう一か所調査してみて、あとは、その男に直接聞いてみるよ」
「またお世話になりますが、よろしくお願いします」
「いや、私もこの件については、個人的に興味をもってるんだ。何か新しいことが分かれば、また、こちらから連絡するから。リカルドは、サンバの練習がんばってよ。会社の偉い人も見に来てくれるといいね」
「はい。ブラジルのいいところを見せられるようにがんばります」
 群馬からの帰り道は、休日の夕方のラッシュにぶつかった。料金所の手前で渋滞にはまっていると、セルジオ金城からのメールが頭に浮かんだ。
「この間見かけた、マンションのプレイロットでの光景だが、ペドロと遊んでいたのは、母親のカロリーナじゃなくて、クリチーバから出てきたアナだ。カロリーナと同じ顔をしてるが、実の母親じゃないから、ペドロがあまりなつかないわけだ」
 アナは、死んだカロリーナに代わって、サンパウロでペドロを育てている・・・。
 青山の自宅に帰ってからは、あの男にどうやって話を切り出そうかいろいろ考えて、その夜はよく眠れなかった・・・。
 その週の水曜日の晩は、ジュリアーナを誘って、約束通り、大久保の韓国料理のレストランに行った。ジュリアーナはマッコリ以外の韓国酒も気に入り、調子に乗って何杯も飲んでいるうちに、すっかり酔っぱらい、眠ってしまった。
 客が少なくなった時間帯に、店のオーナーにそれとなく聞いてみると、実によくしゃべってくれた。
「・・・そうですね、来られたのは、確か、9月の最初の頃でした。あの外人のベッピンさん、どこかで見たことがあると思ったけど、話しているうちに、前によくキムラさんと来てた人だって思い出しました。3年ぶりに外国から来られたって言うんで、キムラさんの会社の場所だけ教えてあげましたよ」
「西新宿の、木村屋コーヒーが入っているビルですね」
「そうです。ところで、お客さん、キムラさんとは、よく会われるんですか」
「ええ、時々。仕事でちょっと付き合いがあるもんですから」
(写真)5日のジウマ大統領(Roberto Stuckert Filho/PR)