罷免問題、コロニアの声を聞く=「起こるべくして起きた」=ペトロロンは氷山の一角

 日曜日午後、大統領罷免請求の審議継続の是非を問う下院議員の投票が行われ、そこで罷免賛成票が342票を上回れば、翌週からテーメル新政権が暫定的に発足する可能性がある。1992年以来の大きな政治的な節目に当たり、ブラジルの政情を憂うコロニアの声を拾ってみた。

 中野晃治さん(80、広島)は政治に強い関心を持っており、伯テレビと伯字紙をつき合わせ、日々ニュースを判断しているという。
 大統領罷免について「政治が不安定だからこういう事態が起こる」と述べた。不安定さの原因を「汚職」と分析し、「これを改善しない限り、延々と続く」と述べ、ラヴァ・ジャット作戦を肯定的に評価。
 「ペトロブラス汚職はあくまで氷山の一角」と話し、他の事業にもつきまとっている問題と見ている。「税金が高い国なんだからお金はある」と言い、「それを袖の下に入れるんじゃなくて、ちゃんと医療・治安・教育などに回せば国は発展する」と論じた。
 PTの生活扶助金を過剰に支給する政策に対して、「補助金をばらまく政治はいつまでも続くものではない」と断じる。「資金が足りないため公約も達成できていない」と話し、「罷免請求は起こるべくして起こった」と述べた。
 「政権交代には良い面がある」と言う。新政権が誕生した場合、状況が改善されるのではという希望が民衆に生まれ、消費なども活発になるはずだと語った。
 かつて商店を経営していた、サンパウロ市在住のロベルト誠治さん(66、二世)は、「政局の混乱、市民の苦悩を見ると86年のクルザード計画を思い出す」。サルネイ大統領(当時)による賃金や物価を凍結するなどの経済対策のことだ。
 「売値が決められ経営に苦労した。今はもう退職者だから生活の心配はほぼない。でもジウマ政権の維持は反対だ」。自身も、パウリスタ通りでのデモに2回参加した。「声高く民意を張り上げなければ、何も変わらない」と訴えた。
 サンパウロ市日系ルーテル教会の徳弘浩隆牧師(55、福岡)は、ジウマ政権の補助金政策について「一定の人々の所得が上昇した功績はあるが、補助金をもらうことに慣れさせてしまったのでは」と危惧を表明。「自立援助政策に切り替える必要がある」と述べた。
 「未来ある子供たちには特に、タダでものをもらうことに慣れる前に、努力すれば結果がついてくることや、自分自身に投資して人生を良くしていく感覚を身につけて欲しい」という。
 政治が良くならないと不況や治安悪化など、市民生活に悪影響が生まれる。大きな政治的な節目に当たり、コロニアからもっと、日系かどうかを問わず最寄の政治家に声を挙げていく必要がありそうだ。

「ともかく人員一新が必要」=今後の日系政治家に期待大

二宮正人弁護士

二宮正人弁護士

 二宮正人弁護士(66、長野)はジウマ大統領罷免に賛成だ。今回の国営石油会社ペトロブラス関連など一連の汚職事件に関し、「前代未聞の事態であり、ともかく人員一新が必要だ」と一刀両断する。
 議会承認により大統領が180日間職務停止となった場合、テーメル副大統領が昇格となるが、大統領継承順位にあるものも疑惑がつきまとう現状がある。「この際、継承順位5位の最高裁長官に至るまで、暴かれるべき疑惑は暴かれるべきではないだろうか」と提言する。
 日系政治家については「この政治的混乱による危機を乗り越えるためのリーダーシップを備えた人材は残念ながら頭角していない。今後、日系政治家に期待するところは大きいが、時期を待たざるを得ないだろう」と見ている。
 当地の政治問題を語るにあたり、「政治家だけではなく、投票している国民にも責任がある。労働者党のばら撒き政策に誘導される選挙民は、新聞やテレビを通じたメディアの政治報道に殆ど注意を払っていない。まさに、衆愚政治そのものだ」と根本的な問題を提起した。汚職をなくすのは容易なことではないが、「民主主義の成熟が求められている」と言えそうだ。

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 数年前に帰国したデカセギ子弟の30代男性(三世)は大統領罷免が起きている政治状況に関し、「根本が変わらないと何も変わらない。日本みたいに教育水準を上げないと未来はない」と語気を強めた。また「日本へ哀愁があるデカセギ子弟の場合、ブラジル政治に関心が向いていない。日本を思う気持ちも理解できるが、若い日系人からもブラジルの政治に対する意見をもっと上げるべき」と切願した。自分が現在住む足元であるブラジルの政治情勢には、移住者はもちろん、日本で育ったデカセギ子弟も興味を持ってほしいところだ。