なぜブラジル社会に広まるのか=キリスト教を補完する在り方=「月刊誌」を読んで治る

ソニア・レジナ・ソス・サントス・イポリットさん

ソニア・レジナ・ソス・サントス・イポリットさん

ジョゼ・ルフィノ・ジュニオールさん

ジョゼ・ルフィノ・ジュニオールさん

 ブラジルに進出した日系宗教としては文句なしに最多の200万信者を抱える生長の家――その9割が非日系人といわれる。なぜそんなに一般社会に広まったのか、どんな部分がブラジル人から求められているのか。その理由を、非日系信者を代表してサントス教化支部長のジョゼ・ルフィノ・ジュニオールさん(61)、白鳩会副会長のソニア・レジナ・ソス・サントス・イポリトさん(61)に聞いてみた。

 生長の家の三つの基本的な教えの一つに「唯神実相」がある。神が作った本当の世界が「実相」であり、そこでは人間は神の子であり、神と自然と人間は大調和している。一方、人間が感覚器官でとらえる世界は「現象」とよび、全体のごく一部の情報を人間の感覚器官がとらえたものを脳が「現実」であるかのように組み直したもの。病気や戦争やテロは「現象」であって、実相ではない―とする。
 そんな哲学的な世界観に惹かれるブラジル人は多く、サントス教化支部長のジョゼさん、女性だけの組織「白鳩会」の副会長の重責を担うソニアさんもそうだ。二人とも深刻な健康問題を抱えたことが、信仰生活に入るきっかけだった。
 ソニアさんは23歳、1978年から生長の家に入った。「私は結核の最終段階、もう手遅れだといわれていた。シャワーを浴びることもできず、毎日ただ寝ていた。姉妹の友達が生長の家の信者で、月刊誌『アセンデドール』を渡してくれ、何気なく読んだ。そこに『病気は存在しない』と書いてあり、「それならなぜ私はここで寝ているの」と最初は憤った。貪るように24時間、読み続けたという。
 生長の家では現在、ポ語月刊誌を毎月45万部も発行しており、このように読まれている。
 ソニアさん一家は当時、経済的にとても困っていた。「6人兄弟で父は失業中。私しか働いていなかった。1カ月間、毎日その月刊誌を読んで、次の診察に行った時、医者から『結核の痕跡すら残っていない。完璧な健康体だ。一体何をしたんだ』と驚かれた」。
 最寄りの支部に顔を出すと皆とても良くしてくれた。神想観(生長の家独得の座禅的瞑想法)の本と聖典「甘露の法雨」を読み続け、先祖や両親に感謝するようになった。「それからは仕事にも恵まれ、一度も経済的に困ったことはない」と言い切った。
 当時は日系人ばかりの青年会しかなかった。「ブラジル人は私だけ。そこに入り、ポルトガル語の集会を始め、だんだん非日系が増えていった」。79年にイビウーナ聖地の青年練成会に一人で参加した。「本当に感動したわ。食事は米飯、フェイジョン、キャベツだけ。ただひたすら霊性を磨くの。神相観をする正しい姿勢を学んだ。リフレッシュして家に戻ったわ」と振りかえる。
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 ジョゼさんもまた重病を患っていた。
 「1990年、脊椎の病気が悪化して下半身が麻痺して車椅子生活だった。病院で手術が必要だといわれたが、その前日に妻が枕元に『生命の實相』第7巻を置いてくれ、ふと手に取ってみると『病気は心の実態の反映であり、病気は存在しない』と書かれており、自分のために書かれていると感じた。手術を辞める決心をし、ひたすら読んだら、徐々に回復していった。妻は数年前から生長の家に通うようになっていた。人は普段、信仰心を忘れているが、人生の井戸の底にいるように感じた時、神を思い出す。私は長いこと教会にも行かず、信仰らしい信仰を持っていなかった」。
  ジョゼさんは「ちゃんと学ばなければ」と感じ、読んで読んで考えた。「支部に通って話を聞き、先祖供養の祈りを毎日捧げるうちに病気は完全に良くなった。これは皆に広げなければと思い、講師になった」。
  無意識に強いストレスにさらされていると、それが病気となって身体に現れることがある。気持ちの持ち方、人生に対する考え方が変わるとストレスが軽減され、身体の免疫機能が回復するようだ。心と身体には密接な関係があり、生長の家の出版物を読むことでその態度が養われるようだ。

刑務所や少年院で心の相談=父憎む少年に親への感謝説く

女性用監獄の様子

女性用監獄の様子

  3月23日付エスタード紙によれば、2014年のブラジル内の殺人事件の犠牲者は世界最多。世界中の13%に相当する5万9627人が殺されている。
  加えて昨年5月、ブラジル法務省は刑務所の収監者数は世界第4位、60万人を超えて増加中と発表した。14年6月現在の収監者数は60万7731人で、米国222万8424人、中国165万7812人、ロシア67万3818人に次ぐ。
  そんなブラジルにおいて、「犯罪者をどう更生させるか」はまさに国家的な大命題だ。それに日本宗教という立場から果敢に取り組んでいる。
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  ジョゼさんは「子どもにパンを買うはずのお金で、朝からバールでピンガを呑んでいる男性がいた」と悲しい事例を振り返る。「彼が集会に顔を出した時、じっくりと話し合った。徐々に教えを理解し、ピンガをやめ、良い父親になっていった」という。
  刑務所は別名「犯罪専門学校」とも呼ばれ、〃先輩〃から犯罪知識を教え込まれて出てくることはよくある。それゆえ刑期を終えた人に職を与える会社は少ない。「出所した後、仕事が見つからず、社会から拒絶されていた男性もいた。でも集会で教えを学んで菓子店を始め、成功するようになった。今では彼らは支部を支える重要な人材だ」。
  ジョゼさんは「我々は前科者でもまったく同じように扱う」と胸を張る。公平に扱うだけでなく、刑務所の中にも積極的に相談・布教に赴く。「仲間の講師から8人を選んで刑務所や少年院に通い、囚人に教えを広める試みをしている。毎月1回、1時間ほど8~10人のグループで集会を持つ。少年の中には殺人犯もいれば泥棒、麻薬密売人もいる。彼らの多くはファヴェーラの住人」と説明する。
  「多くの囚人は薬物依存、精神不安定、家庭内の問題を持っている。まず彼らに父や母の大事さを説明する。先祖に感謝するように諭す。少年たちは一般に父を憎んでいる。中には父を殺したものまで。とにかく父を非難しなじる。でも、なぜか母親は愛している。父が母を殴ったりした記憶を子どもの頃から植え付けられている。生長の家の本を読ませながら両親や先祖への感謝がいかに大事かを、ゆっくり具体的に説明する」。
  ブラジル社会独特の興味深い傾向といえそうだ。「母親は慰問に来るが、ほとんどの場合、父が来ることはない。母が慰問に通っている場合は少年に話が通じやすいが、両親とも会いに来ない少年が最も心を開き辛い。この対話には大変な経験と忍耐が必要だ」という。
  収監者の反応を聞くと、「彼らはとても真剣だ。『俺も神の子なのか?』『病気は存在しないのか?』と驚きをもって訊ねてくることがある」とほほ笑む。

少年「夢はテレビに出てくる悪党になること」

 ソニアさんも刑務所での集会を行っている。「サンパウロ市のある少年院にいくと一部屋に60人が詰め込まれていた。そこに理想はない。少年たちに『夢はあるか』と訊いたら、誰も返事をしなかった。ただ一人だけ答えた少年がいたわ、『テレビに出てくるような有名なバンジード(悪党)になりたい』って」と笑う。社会のヒズミがこの貧困青年層に集まっている。
 「テレビでは一生懸命にジムで筋肉トレーニングする姿が映されるけど、本当に必要なのは〃心の筋肉トレーニング〃のはずよ。それが祈りなの」という。
 その社会背景に関してソニアさんは、「犯罪増加に対処するには、もっと精神性を重視しなければいけない。昔は祈りが生活の中心だった。今は職業的な野心やお金が人々の願い、関心の中心になり、祈りは二の次になってしまった。もっと精神的な平安の大事さを見直す必要がある。いまの文明のあり方には〃病んだ思春期〃のような部分がある」と分析した。
 ソニアさんは愛国心の醸成を大事にしている。社会との調和が意識されると犯罪が減る―と考えている。「我々は青年たちに愛国心を教えている。青年にはどうしても抵抗期があり、社会的な調和を失うことがままある。そんなときこそ、両親への感謝を示す研修会を催す。生長の家は、そのような教育が大事であると考える。だから学校教師だけのグループ『教職員会』もある。どう教えを教育に活かすかを真剣に議論し、実践する。子供たちが持つ無限の可能性をどう発現させるかをみんなで考える」。
 さらに、「生長の家の環境に育ったものには、道にゴミを捨てることすら難しい。子供時代からのこの意識付けが大事。これはブラジル社会にとってとても大事なこと。国を愛する心を植え付けることは、すべての根本」と力説した。

世界平和とテロリズム

 取材をした3月22日朝、ベルギーでは同時多発テロが発生した。欧州キリスト教世界VSイスラム教過激派という宗教対立的な側面もある昨今のテロに関して、ジョゼさんは「谷口雅信先生は原理主義を批判している。テロリズムは聖戦を正当化しているが、宗教の根源はみな同じ(万教帰一)だと生長の家は教えている。同じであれば宗教対立は起きないと思う」という。
 ソニアさんは「世界の混乱は、人の心の反映なの。心を整えないと世界の混乱は収まらない。みなが精神の平安を求めることが足りない。平和は一人一人の心から始まる。みなが内面の平安を求めることが大事」と考えている。
 さらに「今は、世界の重要性の序列がひっくり返ってしまっている。本来は神、自然、次が人間であるはず。それがまるで人間が世界の中心であるかのように振る舞っている。環境問題、戦争など、そこからさまざまな問題が起きている。人よりも自然を重視したら、地球環境への関心は自然に湧いてくる」と自然との共生を訴える。「スーパーに並んでいるものを見たら分かるけど、今の食べ物は、ほとんど工業製品で、農薬の入っていないものを探すのは難しいぐらい」。
 ジョゼさんも「肉を食べず一カ月に1回、一汁一飯を実践している」という。「ブラジルも今、政治的な混乱の真っ只中。だからこそ世界平和を祈っている」。

「神の子」と先祖へ感謝

 カトリックでは、生まれながらに全員に「原罪」があると説く。ウィキペディアによれば《原罪とは、人類の歴史の出発点にある人祖(アダム)の罪であるとされ、その罪とは神に対する不従順であることは間違いないとされる》とある。
  でも、生長の家では「人間本来神の子・仏子であって罪なし」と説く。「自分は罪人だ」と幼いころから植え付けられたブラジル人にとって、これは救いの言葉となるようだ。
 ジョゼさんは幼年期を振り返る。「両親はカトリックだった。9歳のころ、土曜日にジャバクアラの教会で忘れられない経験をした。初聖体拝領のときだった。教会の中で走って遊んでいたら、二人のおばあさんが、僕を指さして『この子供たちどうしょうもないペカドーラス(罪人たち)ね』と言った。今でもその言葉をはっきり覚えている。日曜日にちょっと遅れて行ったら、今度は『神さまの罰が当たったのよ』と言われた。今でもカトリックにはそのような意識がある」と比較する。
 「結婚した頃からキリスト教会に行かなくなり、病気してから生長の家に通うようになった」という。
 一方、ソニアさんの家族の一部はエスピリット(心霊主義)、残りはカトリックだった。この二つが家族の考え方の中で入り混じり、「とても混乱していた」という。キリスト教は心霊主義を否定しており、双方を同時に信仰するのは難しい。
 IBGE2010年調査によれば、国内の信者比率はカトリックが人口の65%、心霊主義が21%もあり、それが交じっている家庭環境もかなりあるようだ。
 ソニアさんは「その点、生長の家はその両方を統合するような考え方がある。『身体の死を超えて、霊魂は生き続ける』と教えてくれ、矛盾が解消された。宝蔵神社で先祖に祈りを捧げるのと同じように、家の中でも先祖に祈る。それによって家族のルーツ意識が強まった。生長の家創始者・谷口雅春先生は、家族という一つの樹の根っこは先祖だと教えてくれた。霊魂は消滅することなく、人間という『段階』を送るだけ。広く深く張った根があるからこそ、木は高く伸び、たくさんの花を咲かせる」と明快にのべた。

ブラジル人女性救う水子供養

宝蔵神社大祭の午後に行われる流産児無縁霊供養塔供養祭。水子に捧げられた沢山のお菓子

宝蔵神社大祭の午後に行われる流産児無縁霊供養塔供養祭。水子に捧げられた沢山のお菓子

 ブラジルでは、強姦や母親に生命の危機がある場合、無脳症児などの特別な場合以外の堕胎は禁止されている。カトリックは堕胎を「殺人」と見なし、水子を供養する儀式もない。だが2014年だけで100万件も違法堕胎がおき、うち警察沙汰になったのは33件のみ(エスタード紙2014年12月20日付電子版)。多くの若い女性は心に傷を抱えつつ、宗教に癒してもらえず苦しんでいる。
 それゆえ、ソニアさんは水子供養をとても重要視する。「たくさんの女性が堕胎をして罪の意識に苦しんでいる。堕胎は抵抗できない赤子の命を奪っていることなのか。堕胎した女性は一生、その苦しみを抱え続けなければいけないのか。毎年、婦人を集めて堕胎に関する集会をする。女性の体は自分のもの、じゃあ、子どもの体はどうなのか。イビウーナでは匿名の水子を慰霊する。そこで水子の存在が公に再認識され、女性は赦しを乞い、救いがもたらされる。生長の家には『死』は存在しない。堕胎した赤子は霊界で生き続けている。白鳩会はそのような世界観をブラジル全体に広めることで、女性を救う使命がある」
 ジョゼさんは「生長の家に来る人は、みな何かの救いを求めている。他の宗教では救われなかった悩みを抱えている。家族の不和、精神や肉体の健康上の問題など。それが教えによって実際に救われる」。生長の家にはキリスト教を補完する役割があり、それゆえに広まっているようだ。