県連故郷巡り(北東伯編)=歴史の玉手箱=第12回=「母の勇気の何分の一かあれば」

 竹中芳江さんの家族の話は実に興味深い。「グァポレに到着した時、他の家族はみんな泣いていたけど、母だけは歌っていた。だってアマゾンにきて初めて、家族が全員そろって御飯食べたのよ。あそこにいた3年半で家族の団結が一気に強まった。ある時、日本の祖父から『旅費を全額負担するから日本に帰ってこないか』と母に連絡があったが帰らなかった」ということもあった。
 3年半でグァポレを諦めて、二日がかりでクイアバに南下し、そこからサンパウロに出た。
 「母はサンパウロで魚の行商をして生活を支えた。手相見はみんな『あんたたち夫婦は分かれる』と言ったが、両親は最後まで別れなかった。母は自分では『苦労した』とかまったく言わない人。そんなお母さんの勇気はすごいと思うの。私にその何分の一かの勇気があればイイなと、今でも思うわ」。肝っ玉母ちゃんというのか。すごい個性的な女性だったようだ。
 良江さんの娘ロザナさん(55、二世)は今回の故郷巡りに関して「藤田十作が子供に日本人の精神を伝えたことが、息子たちの立ち振る舞いの上品さから分かった。ノルデステでも日本移民の歴史が残っていることが分かって嬉しい」との感想を述べた。

吉田富士子さん

吉田富士子さん

 翌3月13日朝、わざわざブラジリアから参加した吉田富士子さん(67、高知県)に話を聞くと、「とにかく旅行が大好き。故郷巡りも4回目」とのこと。9歳の時、チチャレンガ号で家族移住した。「3年前かしら、トルコにツアー旅行したら、その一週間後にシリア内戦が始まって驚いた。なんといってもカッパドギアが凄かったわね。トルコじゃ全然言葉が通じないかと思ったら、現地人が『奥さん、奥さん』って日本語で言ってくるじゃない。ビックリよ」との体験談を披露した。

 ホテルを出発した一行は、途中、アキハース地区で「カーザ・デ・ヘンデイラ(編み物の家)」という土産物センターに立ち寄った。そこでは母娘3代に渡ってセアラ織りをする名物女性マリア・ジウダ・モレイラ・メレイラさん(68)が、実演をしていた。目に見えない早業で、重りの付いた編み棒を左右に行き来させて編んでいく。

ギネスブックに挑戦中のマリアさん

ギネスブックに挑戦中のマリアさん

 なんと1日で50センチしか織れないが、すでに1300メートル分も仕上げ、2千メートルを目指しているという。「ギネスブックに入れるのよ。母から教わって、娘にも伝えた。もちろん孫にも伝えるわ」と誇らしげ。
 午前10時過ぎにはアラカチに立ち寄り、エビ養殖場「ミランテ・ドス・ガンボアス」を見学した。約33年前に創立し、630ヘクタール分の養殖池があるという。90日で出荷可能に育ち、毎日25トンを「Maris」ブランドで生産販売している業界最大手の一つだ。
 そこで昼食時、フランカからの参加者、中村伯毅さん(ひろき、82、二世)と話をしていると、「父は終戦直後、ホリサワという帰国手続き詐欺師に20年間も財産を騙されていた」という驚愕の話を始めた。(つづく、深沢正雪記者)