知識だけでは片手落ち?

 「何事も経験」という言葉がある。何事も自分で経験してみるまではわからないとか、本質が掴めないといった意味の言葉だ▼左右の聴力に差がある原因を知るための検査の予約票を取りに行く時、バス停で30分待たされた。ところが、帰りのバスで別の線で途中まで来て乗り換えれば早いと気づき、地団太を踏んだ時、この言葉が思い浮かんだ。と同時に、同日朝聞いた「ジウマ大統領は経験不足で横柄だったが、様々な抗議行動後に『もっと街頭に出よ』と言われてやっと外に出始めた。でも、街頭に出る事の意味は理解していなかったようだ」とのTV解説者の言葉も思い出した▼10年の大統領選の時、マルタ・スプリシー上議はジウマ氏に「ハイヒールじゃだめ。靴の底を減らさなきゃ」と助言した。街頭で選挙民に触れ、生の声を聞くには、かかとの細い履物は役立たないと知る先輩故の言葉だ。だが、市長選などを何度も経験したマルタ氏と違い、その時が初選挙だったジウマ氏はルーラ政権の景気高揚の波に乗って当選した▼ジウマ氏はその後も前大統領や労働者党(PT)の庇護を受けたが、議会工作などは苦手で、前大統領やPTと距離を置こうとした時期もあった。ルーラ氏が敷いたレールの上を走っただけなのに、当選は実力であるかの如き振る舞いはPTからも批判を浴びたし、民意をはかりかね、ルーラ氏らの助言を仰いだ事も数多い▼前大統領の構想は18年選挙での返り咲きとPT政権存続だったが、ラヴァ・ジャットでの告発や今回の罷免騒ぎでその夢は潰えるだろう。頭の中や机の上で描いた絵が潰れる段階で、ようやく経験不足や設計ミスに気づくのも悲劇だ。(み)