「日本文化」第2巻に寄せて=中田みちよ

中田みちよさん

中田みちよさん

 「日本文化」の第2巻が出ました。厚さが第1巻の優に倍はある読み応えのあるものです。まず、はじめに「柔道という教育」という山下泰裕の話を読みました。「大いなる勝利」というカイオ・カストロというブラジルの若手人気俳優の映画がありましたが、貧民階層の少年が柔道と出会い、嘉納治五郎の教えに目覚め、柔道家、柔術家として社会上昇するというはなしの映画で、柔道哲学がいたるところにちりばめられています。
 その原作を邦訳するという話が突然舞い込み、しかも、オリンピックに間に合わせたいということで、ひと月、かんづめ状態で300ページを訳しました。パソコンの前に坐ると頭痛や吐き気がするほど根をつめた作業でした。翻訳を完了できたのは、訳者というより、一読者として話がたいへん面白く、楽しいものだったからです。

「日本文化」第2巻の表紙

「日本文化」第2巻の表紙

 先々週に訳稿を手渡したのですが、この「日本文化第二巻」が、もう少し前に発行されていたら、どんなに助かったことだろうと残念でなりません。邦題は「柔道に生きる」ときまりましたが、話は面白いけれど、結構、柔道の業界言葉がおおく、女の私は頭を悩ましたので、その手助けになれたものを、と残念だったのです。
 実は私には官庁づとめでブラジリア在住の息子がふたりいます。サンパウロにいたころは熱心に日本学校に通いました。日本学校、日本語の先生が大好きで、風邪で熱が高いからといっても、親のいうことなどどこ吹く風、学校に出かけたものでした。
 むろん、息子たちは日本語はもう、読めないでしょうし、電話で話す日本語だって、だんだん怪しくなり、私たちのメールはローマ字つづりにしているほどです。いま、私は『日本文化』の1と2を手にしながら、定期購読は可能なのだろうかなどと考えています。ふたりの息子にプレゼントしてやろうか、という思いがあるからなのです。
 この本はバイリンガルになっているので、日本についての知識を増やすにはベストです。だから、ブラジル社会にどっぷりつかっている40~50代の日系人、ひいてはブラジル人にこそ読んでもらうべきで、販路もその方向に進めていくべきではないでしょうか。
 日本に関する本はホントに少ない。情報誌の形で、大型書店などに売り込んでみてはいかがでしょうか。実際は書店の隅で無料配布にするか、廉価販売が望ましいとおもいます。日伯文化連盟のような成人教室ならともかく、対象が日本学校ではむかしの日系社会から脱しきれません。
 聖南西地方の日本語学校がずらりと顔を並べているので、対象は日本語学校なのだろうかなどと考えたのですが、内容的には、成人にこそふさわしいと私はおもいます。ここに掲載されているような、ためになる話を、面白いと感じるのは社会人となってからで、子どもはお説教くさい話は嫌いではないでしょうか。
 新聞社の首脳部も、若い記者さんたちに聞いてみたらいかがでしょう。彼らは面白いとおもっているのでしょうか。
 私は個人的によい話で、面白いと感じていますし、新聞掲載の折にもよく読みますが、何しろ、70代のお婆さんです。若い人が、買ってでもぜひ読みたいとおもうか、にはちょっと疑問を抱いています。
 誤解しないでください。雑誌が悪いというのではありません。対象として考えている読者層のために、窓口をブラジル社会に開くべきだと、懸念しているのです。