EU離脱はグローバル化への反動

国民投票の結果を受け、辞任を発表するキャメロン首相(Foto: Tom Evans/Crown Copyright)

国民投票の結果を受け、辞任を発表するキャメロン首相(Foto: Tom Evans/Crown Copyright)

 《英国の決断は地球全体に損失をもたらす類のもの。経済的に閉鎖的な見方しかせず、外国人に寛容性のない国粋主義者だけが得をする》――尊敬する政治評論家の一人ケネディ・アレンカールは、英国民がEU離脱を決断したことに関し、そう手厳しい評論をした。興味深いことにブラジル人知識層は、今件に関して総じて否定的だ。「移民に寛容であるべき」とのブラジル精神に反する決断として否定したくなるようだ▼だが、あれは当地の新聞やテレビでよく言われるような「移民拒絶」「孤立主義」「ナショナリズム高揚」というよりは、「グローバル化への反動」の側面が強いような気がする。国境をまたぐ人、モノ、金の移動を極限まで自由化してきた結果、お金の自由化でロンドンは「シティ」と呼ばれるEUの金融センターとなって経済が潤った反面、EU域内貧乏国の労働者も無制限に流入した▼それを天秤にかけた結果、生活不便増の重みに耐えきれず「待った!」をかけた。昨年だけで50万人もが流入し、自慢の無償医療制度が悲鳴を上げる状況になっていると聞く▼「国民投票」の難しさも露呈した。これは、国民一人一人による身の回りの狭い範囲での判断を積み重ねて、国政を左右する重要案件を決断する制度だ。今回のような外交的な部分が強い案件には、国際的な視野や分析能力が欠かせない。だが一般国民はどこまでそれを認識していたか。国民投票の危険さはそこにある。EU離脱報道後、英国で最もグーグル検索された言葉が「EUとは何か」だった。つまり、後からことの重大さに気付いた国民も多かった。これから自分たちがした「歴史的な選択」の意味を、じっくりとかみ締めることになる▼おもえば2年前、当地の大統領選挙では接戦の末、僅差でジウマが選ばれた。選んでしまった国民は今、そのツケを払っている。でも中長期的に見れば、そのおかげでラヴァ・ジャット作戦が進んで「政界一斉浄化」が進んだともいえる。ただし、短期的な混乱は避けられない。英国民もそうだが、投票を基礎とする民主主義である以上、選択の結果を前向きに考えるしかない▼今回の決断はメルコスルにも影響を与えそうだ。メルコスルも80年代半ばに南米各国の軍事政権が次々に倒れる中、実は亜国とブラジルが極秘で原爆開発をしていた秘密が暴露され、南米大陸にも核戦争の危機があったことが露見した。その危機を地域共同体化によって回避しようという理想が形になったものだ▼だがジョセ・セーラ外相は、メルコスルよりも欧米諸国との二国間経済協定を重視する方向性を就任当初から打ち出している。それにジウマ政権はEUに溢れるシリア難民の条件付き受け入れを提案していたが、現政権はそれを引き下げた。つまり、ブラジルですらも無制限な移民受け入れはしないし、地域共同体からは離れる方向だ▼海外在住の日本人としては英国民の気持ちが少しは分かる気がする。元来、日本と英国は島国同士、どこか似たところがある。共に大陸に近く、そこには喧嘩っ早い国々がある。両国は王室、皇室を抱え、長い歴史に培われた伝統が国民性として息づいている。その伝統を壊すようなグローバル化には拒絶反応がでても不思議はない。たとえ方向性が間違っていなくても、移民受け入れは国民が納得できる程度にゆっくりやるべきだ▼英国民は首都の居住者の半分が外国人になるまで我慢した。はたして、日本人は東京の人口の半分が外国人になるまで受け入れられるか?――間違いなくムリだろう。良くも悪くも、英国民の決断を尊重したい。(深)