第31回リオ五輪の大成功=サンパウロ 平間浩二

 オリンピックが近づくにつれて、世界各地で過激派組織ISが無差別テロを起こしていた。7月14日のフランス独立記念日には、単独によるトラックテロ事件で多くの痛ましい犠牲者が出た。

 ブラジルでも、8月5日の五輪開幕を狙ったテロを計画した容疑者10人が逮捕された。この報道に接した時、遂にブラジルでもイスラム過激派組織ISの影響で国内テロ組織が結成されたのではないかと危機感を募らせた。

 世界最大のスポーツの祭典、オリンピックの開会式でテロが起きるのではないかと懸念すると、居ても立っても居れない程、強度な不安感にかられた。開会式が『テロ』に襲われないよう無事成功することを祈り、テレビを見ていた。

 午後7時から、各国選手団の入場行進がにぎやかに始まった。その選手の一挙手一投足、一人一人の笑顔に、世界平和の祭典が今まさに始まろうとしている。特に難民のオリンピック選手出場者が満面の笑みを浮かべて入場して来た時には、感動し、拍手をおくった。

 日本の選手団も笑顔で入場してきた。白いズボンに赤いブレザーを着用したスタイルは、昭和39年(1964年)の「東京オリンピック」を懐かしく思い起こさせた。

 各国選手団の入場が終了した後、「あっ!」と驚く画面が飛び出した!コンピューター・グラフィックによる藍色の幻想的に醸(かも)し出す光に、人の綾なす無数の糸が、正確かつ一糸乱れなく整然と動いているではないか! この感動すべき夢を見ているような素晴らしい画面を見た瞬間、『テロ』の二文字が脳裡から消えた。

 その後もブラジルの歴史を現在まで、最新の映像を駆使したCGで絢爛豪華に醸し出された。このような画面の連続に時を忘れて魅入(みい)った。このような演出は、ブラジルが最初であったように思う。

「春宵の光綾なすリオ五輪」

 昭和39年の東京オリンピックの時は、敗戦の復興から立ち直り、高度経済成長期の真っただ中で、カラーテレビが急速に普及し始めた時であった。一億の国民がオリンピックに浮かれていたことを、今回の入場式スタイルで二重写しになった。あれから早52年の星霜が流れた。

 さて、日本選手の活躍は、国技の柔道はもとより、団体の体操、女子レスリング等が大いに健闘し、メダルの獲得に貢献した。私は男子400メートルリレーの観戦を見逃したが、アジア史上最速で初の銀メダルを獲得した4人に対し敬意を表したい。

 卓球の試合は、今まであまり観たことがなかった。今回チャンネルを回したところ、ちょうど水谷準選手の準決勝が行われていた。こんな狭い卓の上で猛烈な打ち合いをするのを、初めて目の当たりにした。
この試合は惜しくも負けてしまったが、3位決定戦で不利な状況をみごと逆転し、銅メダルを獲得した。その瞬間、水谷選手が床に仰向けになり、両手をばたつかせたのが印象的であった。

 また、男子・女子団体戦では接戦の末、男子は銀メダル、女子も銅メダルを獲得した。女子が銅メダル獲得した瞬間、愛ちゃんが号泣した。私も感激してもらい泣きしてしまった。本当に手に汗を握る試合であった。

 体操の団体戦の予選を見逃したが、内村航平選手が鉄棒競技をしている最中にまさかの落下で、グループ別で4位になった。決勝戦で内村選手の成績如何では、優勝を逃してしまう状況にあった。

 その団体戦、最後の内村選手の鉄棒の競技を見守った。最後のフィニッシュを見た一瞬、感動のため全身に鳥肌が立った。鉄棒の数メートル上を静かに流れるように飛び、無事着地した。これまでに見たことのない程の妙技・神業であった。成績表には、見事1位の数字が発表されていた。団体戦で大逆転の金メダルは12年振りのことであった。

 テニスは錦織圭選手が世界ランキング上位になったため、興味を持つようになった。初めの頃は採点の読み方が良く分らずに戸惑ったが、見ているうちに何とか分るようになった。錦織選手は3位決定戦で勝ち、銅メダルを獲得した。日本がメダルを獲得したのは何と96年振りとのことであった。今後とも大いに期待のできる有望な選手である。

 ブラジル選手では、日本の柔道家・指導員の藤井裕子さんの下『師弟不二』の真剣な血のにじむ練習に次ぐ練習で、ラファエラがブラジル初の金メダルを獲得した。ラファエラの気性の激しい野性的性格を巧みに指導に取り入れた感動的な勝利であった。

 その金メダル獲得の陰には裕子さんの夫、陽樹さんの存在も大きかった。眼に見えない夫婦の絆の勝利でもあったのだ。

 シダーデ・デ・デウスのファベラ(貧民街)出身の金メダリストは、ブラジル全土のファベラの青少年にとって大きな希望の星となり、その人気は益々上昇中である。これからも将来に向け柔道を目指す少年少女たちが増えてゆくだろう。日伯親善友好の輪が深まって行くことを期待している。

 オリンピックも終盤にかかり、ブラジルは男子バレーボールと男子サッカーでみごと劇的な優勝を果たし、金メダルを獲得した。選手はもとより国民挙げて絶叫の坩堝と化した。オリンピックのサッカーでブラジルが金メダルを獲得したのは今回が初めてのことであった。サッカー王国ブラジルにとって歴史に残る、有終の美を飾る最高のオリンピックになったのである。

 8月21日、全ての競技が無事に終了し、リオ市内のマラカナン球場で閉会式が行われ、17日間にわたったスポーツの祭典が閉幕した。日本は金メダル12個、銀メダル8個、銅メダル21個と過去最多のメダル数であった。選手みなさんの健闘を心から称えたい。4年後の東京オリンピックが楽しみであり、大いに期待が持てると思う。

 だが、メダル至上主義に陥った国を挙げてのドービング問題もあったが、最も心配した『テロ』による大きな混乱はなく無事に閉幕したことが、リオを愛する私にとっては最大の喜びであった。

「春光や平和の砦オリンピック」