メルコスール加盟の裏幕=ジウマの秘密工作を暴露=〝独裁体制〟ヴェネズエラ=アスンシオン在住 坂本邦雄

ベェネズエラのマドゥロ大統領とボリビアのエボ・モラエス大統領(Foto: AVN/ABI 5/3/2016)

ベェネズエラのマドゥロ大統領とボリビアのエボ・モラエス大統領(Foto: AVN/ABI 5/3/2016)

 ブラジルのヴェージャ誌(10月7日号)が報じるところによると、時のジウマ・ルセフ大統領(2011年1月―2016年8月)は、ブラジルがパラグァイに対する双国イタイプー水力発電所の同国分余剰電力買い上げ価格を3倍に値上げする事をもって、ヴェネズエラが望むメルコスールへの正会員国加盟を認めさすべく、パラグァイ国会を説得(買収)する策略を進めていた事実が、この度発見されたイタマラチ(外務省)の在カラカスブラジル大使館宛の機密訓電(2011年6月4日付)で明らかになった。

 ヴェージャ誌の電子版(http://veja.abril.com.br)は、イタマラチがカラカスの大使館に移牒した同機密訓電は、ジウマ大統領と故チャヴェス大統領(2013年死亡)との2011年6月6日の対話の内容を転載しているのだ。
 この公電はヴェージャ誌に依ればブラジル外務省の「機密書類」に類別され、2026年までは公開が禁止されていたものだった。
 なお前ジウマ大統領は、元ルーラ大統領もこのヴェネズエラのメルコスール加盟成就の為に、陰で並列的に支援外交を展開したと語った。
 そしてヴェージャ誌は、ブラジル政府はパラグァイ国会を説得し、ヴェネズエラのブロックへの加盟議決を早期に得るべく積極的に働き掛けたと言う。
 しかし、パラグァイの国会はヴェネズエラのメルコスール加盟は、同国が民主的な基本資格を備えていない理由で長年その議定の批准を拒み続けて来た。
 ヴェージャ誌によれば、未だ連邦議会の承認さえ無かった頃の、件のジウマとチャヴェス対話の以前にも、既にジウマはパラグァイのイタイプー余剰電力買い取り価格の問題をパラグァイ国会攻略の「強請(ゆすり)の材料」に利用していたと伝えられる。
 2011年5月にブラジル上院議会は、そのパラグァイからの余剰電力買い取り価格を従来の3倍に値上する議決を行なった。この結果をジウマは「交換公文の功」と名付けるのだ。その工作のキーウーマンはPT-PR党のグレイシー・ホッフマン上院議員で、同案は基本的に年1億2千万ドルから3億6千万ドルに値上げする正当で戦略的な金額であると主張する。
 ヴェージャ誌は、ウルグァイの元大統領ドン・ぺぺ・ホセ・ムヒカ氏の回顧録を引例し、同氏がその著書の中で、いかにジウマがヴェネズエラ国のメルコスール加盟の為に故チャヴェス大統領に直接協力したかについて述べている。
 なお、2012年6月22日にパラグァイ国会が時のフェルナンド・ルーゴ大統領を、政務不振のかどで弾劾裁判に附し、電撃的に罷免・更迭してしまったのを、ジウマとアルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル両大統領は明らかな「国会クーデター」による民主政体の決壊だと断じ、パラグァイのメルコスール創立正会員の資格停止を要求した事にヴェージャ誌は触れた。
 さらに同誌は、ジウマはモンテヴィデオ市へ政府特別機を差し回し、ムヒカ大統領の了解を得る為に同大統領の特使(側近)をブラジリアに向える等の配慮までしたのだと書いている。
 これはジウマやクリスティーナが、正に「パラグァイ国会クーデター」に他ならぬと決め付けたルーゴ大統領罷免・更迭事件の証拠類の数々を、ムヒカ大統領説得の為に、特使を介して示すのが目的だった。

▼その後のヴェネズエラの情勢

 かくして、曲がりなりにもメルコスールの会員国に成り済ましたヴェネズエラのその後の動向はどうかと問えば、波乱万丈の様相である。
 国民はその悪政に苦しみ大多数の者はマドゥロ政権の早期降板を望み、反体制大連立勢力の「MUD・民主団結協議会」(仮訳。以下「MUD」)は国民投票を召集し、マドゥロ大統領の早期更迭を得るべく運動している。
 Venebarometro(ヴェネバロメトロ社)のアンケートによれば、ヴェネズエラ市民10人の中7人が政権交代を望んでいて、76・4%の国民がマドゥロの行政を否み非難している。
 そして憲法の規定により、マドゥロ在権4年目に当る来年の1月10日以前に件の「国民投票」が行なわれ、大統領の任期が撤回されれば、前倒しで大統領改選の総選挙が出来る事になる。
 しかし、CNE(国家選挙管理委員会)によれば、「国民投票」の開催はその条件が同期日前に充たされれば初めて可能だと言う。もしその期日後になれば、例えマドゥロの更迭が採決されても、現副大統領が昇格し、後任大統領に就任するので、依然として現政権の体制が任期満了(2019年)まで存続する事になると言う説明だ。
 ゆえに、前記の「MUD」は、本2016年中にぜひ、件のマドゥロ更迭の「国民投票」を実施すべく鋭意運動している。だが、マドゥロ派のCNE(選挙管理委員会)は、すでにそんな悠長な時間はないと詭弁を弄し言を左右し、当然ながらいかにも非協力的である。
 問題の焦点は、「国民投票」召集の為に要する有権者の20%に相当する400万人の署名が、この10月26日から28日の間までに集められるかどうかだ。
 そして最悪、本年度中にマドゥロ更迭の「国民投票」が行なわれなかった場合は、更に予断を許されない国民に不幸な危機的な色んな問題の発生が危惧される。
 しかし、マドゥロはどこまでも無神経なようだ。ヴェネズエラのメルコスール輪番議長国の就任に、パラグァイ、ブラジル、それに最後は同調したウルグァイと共に、一致反対したアルゼンチンのマクリ大統領を、「自惚れた帝国主義の政治刺客で、就任草々にアルゼンチンを貧困に陥れ、国民の人権、失業、困窮、絶望などの苦しみにはお構いなく、国家経済を多国籍資本に委ねた、呆れた失敗の徒だ」と罵詈雑言を並べ立てた。
 これを聞いたアルゼンチンの外相、スサナ・マルコーラ女史は、「いやしくも一国の大統領たるものは、その言動に慎むべきだ」と注意し、マドゥロの〝暴言失禁〟を非難した。
 他方、最近パラグァイに来訪したウルグァイのフリオ・M・サンギネッティ元大統領(1985ー1990/1985―2000)は、これ等のヴェネズエラ諸事情に対し、地域各国が明確な意思表示を怠っている事を問題視した。
 「私は非常に専横的な何なんの問題解決策も呈しない悪政の政権をヴェネズエラ国に見るが、他の何れの国々もその対策についてハッキリした姿勢を示していない。これではヴェネズエラ救国のいかなる処方対策も講じ得られないと思う」、と同氏は語った。
 さらに続けて、「ヴェネズエラの国民は今や多数が反体制派であり、その事実は先の国会議員改選で70%にも及ぶ反対勢力の得票数で明らかにされた。また新たに今日投票が行なわれても同じ結果が出るであろう。しかし、現況は憲法に規定される『大統領罷免の国民投票』の召集が政府の工作で遺憾ながら行き詰まっていて望ましい進展が見られない。ラテンアメリカ諸国がヴェネズエラ国で地歩を強化しつつある独裁体制の阻止に一致した行動を打出さなければならない」と憂慮の意を表した。