実生活反映の風刺作が日語に=翻訳選集『とかくこの世は』

刊行を喜んだ日系文学の翻訳メンバー

刊行を喜んだ日系文学の翻訳メンバー

 ブラジル日系文学会(武本憲二会長)からブラジル文学翻訳選集第4巻『とかくこの世は…―カリオカ人生―』(296項)が刊行された。
 同書は作家ネルソン・ロドリゲス(1912―80)がウルチマ・オーラ紙に掲載し、大ヒット作となった100篇のコラムの内25篇に厳選した選集。翻訳は同会内「サークルアイリス」の7人により、2年間に及んだ。
 ロドリゲスは、新聞記者だった父の仕事を手伝い書くコツを習得。実兄の射殺を目前で目撃し、肺結核やその後遺症により視力を失うなど苦難を乗り越えながらも、ジャーナリスト、劇作家として大成した。だがその後は女性遍歴で疲弊し、軍政下でゲリラ活動を始めた息子が投獄されるなど波乱の人生を歩む。
 翻訳メンバーの中田みちよさん、古川恵子さん、関屋八重子さん、前田章子さんは、「浮気や裏切りといった人間の暗い部分。そんな実生活が反映された風刺に富んだ作品は、彼の人生観そのもの。でも、読み通してみると不思議と滑稽で、隠語・俗語をどう翻訳するかを楽しみながら作業できました」と完成を喜んだ。一冊40レアル。
 そのほか05~15年までの武本文学賞で、俳諧の部受賞作を一挙に集めた「セレブラソン・ハイカイス」(テルコ・オダ監修)、「トリーリャス・ロンギンカス・デ・オク(奥の細道)」(メイコ・シモン訳)もエスクリトゥーラス社から出版されている。各々35レ。
 いずれもフォノマギ、高野ほか日系書店で販売中。問い合わせは同会(11・3422・3918)まで。

 

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 日系文学会から刊行された『とかくこの世は…―カリオカ人生―』。社会や人間に不信感を持ち、事象を斜めに見る作者が描いた、実生活を反映した浮気や裏切り、偏執狂の話がほとんど。「カリオカ(リオっ子)人生」と敢えて副題を付け加えたのは、「ブラジル全体がそのように誤解されてはいけない」といった配慮だとか。風刺に富んだ作品を、元のポ語文体の持つ雰囲気を壊さず、現代日本語でどのように伝えるか。翻訳者らが、そんなことに頭を悩ませながらも、楽しんでいる様子が目に浮かぶような本だ。