トランプ・ショックは外国人労働者を真剣に考える好機

インスティツート・ルーラ(ルーラ財団)サイトに掲載されていたクリントン元大統領と会った時の写真。このページはトランプ勝利直後になぜか削除された

インスティツート・ルーラ(ルーラ財団)サイトに掲載されていたクリントン元大統領と会った時の写真。このページはトランプ勝利直後になぜか削除された

 コラム子は別にトランプ氏を支持する者ではない。ただ、ヒラリー氏に関する情報を見聞きするたびに、ラヴァ・ジャット作戦で揺れるPTとの類似を強く感じ、「アメリカよ、お前もか」という暗い気持ちになる▼米ウオールストリートジャーナル5月11日付電子版にあるペギ・ノーナン氏のコラムには、例の告発本『クリントン・キャッシュ』に関して、《外国人が米国の政治運動に寄付することは違法だが、外国の資金はクリントン財団への寄付や講演料の形で大量に流れ込んでいる。「近年において、本人や配偶者が公職についている間にクリントン夫妻ほどの規模で私腹を肥やした人はいない」と(本の著者は)指摘している》とも▼もう一点、《クリントン夫妻は主に「発展途上世界の周辺で」活動することで蓄財していたことも暴露された。彼らにとって「最も金になる取引」に関わったのは倫理に関して最新の規定や手続きが導入されているドイツや英国のような国ではなく、規定が緩い新興国だった》という記述も。トランプ氏の差別発言も酷いが、この種の不正に眼を瞑ることも考え物だ。まさに「どっちがまだマシか」という大統領選挙だった▼おもえば、米民主党は一般に福祉政策、移民政策推進派で「大きな政府」を目指す。金融界などの権力エリート層に加え、教育界や組合関係にも根強い支持層がおり、貧困層やヒスパニックなどの移民や少数民族に人気がある。PTも中産階級から直接・間接税を搾り取り、貧困層向けに福祉政策を手厚く行い、政府支出を激増させ、経済を破綻させた。しかも教育関係者や組合から熱烈に支持されており、党の体質に似た方向性を感じる▼トランプ勝利の後、全米で反トランプデモの嵐が吹き荒れた。これにも「《時給15~17ドルの反トランプデモへの参加者募集》との情報がネット上で拡散されている」「バイト料をもらったデモ参加者を大量のバスに載せて会場に運んでいる写真」などを暴露するサイトが次々に現れた。これが本当なら、PT支持組合による反テメルのデモにそっくりだ▼英国のEU離脱も今回のトランプ勝利も、「グローバル化よりも国内優先」という共通点がある。経済のグローバル化によって国内産業が空洞化し、そこで雇用されてきた中産階級が没落する構図は、米国だけでなく、日本でも顕著だ。日本の場合は工場自体が海外に流出し、安く雇用できる外国人労働者がどんどん国内に流入し、両面から日本人若者の雇用を奪っている▼外国人側は「日本人がやりたがらない仕事をやっているだけ」と主張するが、外国人が大量流入することで、日本人が働きたくないレベルまで時給が下がっている現実もある。特に米国の場合は、不法移民の流入やグローバル化の進展で職を奪われた中高年齢層の低学歴白人の自殺率が異常に高くなっている現実がある。トランプ氏を支持したのは、そんな層だ。いずれ日本の選挙でもそれが争点になる日がくるかもしれない▼日本の場合、外国人労働力の最先端に日系ブラジル人がいるから、他人ごとではない。ただし、しっかりと区別すべきなのは、リーマンショック以降に日本で激増しているベトナム人、フィリピン人は外国人研修制度という3年間に限定された短期滞在だが、ブラジル人の場合は永住可能な「未来の日本国住民」という点だ▼歴史的な人口減少期に入った日本だからこそ、外国人とどう付き合うかは国策に関わる重要な問題だ。トランプ・ショックが起きている今だからこそ、安価に使える短期滞在外国人労働者でお茶を濁すのでなく、在日日系ブラジル人子弟への教育を充実させ、積極的に日本定住をさせて将来を支える国際人材にするという骨太の政策を立案してほしい。(深)