《ブラジル》皇室の理解から移民110周年の準備を始めよう

『日本文化』第5巻

『日本文化』第5巻

 皇室の歴史や成り立ち、現在の状況などについて、ポ語で説明した本があっただろうか。二、三、四世ら次世代に伝えるべき日本文化を両語で出版するシリーズ本『日本文化』第5巻は、その皇室をテーマにしている。来年7月に移民110周年が県連日本祭り会場で予定されており、皇族がご出席される可能性がある。そのときに「きちんとした理解の元、世代を超えて心からの歓迎ができるように」という110周年の準備として企画された本だ▼東日本大震災では1万6千人が亡くなったにも関わらず、スーパー略奪などは起きず、避難民が整然と並んで配給を待った。食料が積んだトラックが貧民街の近くで横転しただけで日常的に略奪が起きている当地からは、その姿に称賛の声が挙がった。2005年から足掛け7年間で首相が8人も変わる政治不安定期にも日本国民はあくまで平静に日常生活を送った。それは「国の軸」がぶれなかったからだ▼いまのブラジルを見てみると、大統領を先頭に2千人近い政治家が汚職スキャンダルに巻き込まれて政局は大混乱、首都の三権広場には軍隊まで出動する暴動騒ぎまでおきた。それが経済に悪影響を与え、財政再建を遠のかせている▼テメルが早く辞任してくれれば、間接選挙で新大統領を選び、心機一転となるが、それまでこの状態が続く可能性がある。これは、今のブラジルの政体で大統領が「国家元首」と「行政府の長」の両方を兼ねていることも関係する。大統領に何かあれば国の根幹が揺らぐ。だが日本の場合は、天皇陛下が国家元首(国民統合の象徴)として政権を超えて続き、行政府の長たる首相が入れ替わっても「国の軸」は微動だにしない▼とはいえ天皇陛下の元々の役割は、神道の神主の最高神官だ。約2700年前から「国のために自然に祈りを捧げる」ことを役割として来た家系であり、世界中を探しても他にない。英国のエリザベス女王の家系であるウィンザー朝だって、19世紀にドイツから渡って来たものであり数世紀に過ぎない。今も皇室は御所の奥深くで、人知れず年間約30回もの祭祀をこなされている。日本という国の最大の秘密は、この皇室の存在に象徴されている▼そんな皇族はブラジルへも節目ごとに足を運ばれている。1958年、移民50周年の折に三笠宮ご夫妻が皇族初来伯をされ、それまでコロニアを二分していた血なまぐさい勝ち負け抗争を和解させる原動力になった。同抗争が激しかったノロエステ沿線もパウリスタ延長線も、ご夫妻歓迎のために一致団結する中でしこりが氷解し、その直後に連合会が作られ、現在に至る日系社会団結の基調をととのえた▼先の移民百周年、2008年の折、皇太子殿下は当地の式典にご出席された。そのおかげで、戦争中に接収されたサントス日本人学校の建物の使用権が、陸軍から現地日系団体に65年ぶりに譲渡された▼思えば日伯外交120周年の2015年11月、秋篠宮ご夫妻が下院議会を訪問され、あの時からブラジル政界浄化が本格化した。翌12月にクーニャ下院議長(当時)はジウマ大統領(当時)の罷免請求の審査開始を決定し、そこから半年がかりで罷免が実行された。ちょうど一年前だ。今はクーニャ自身がクリチーバ刑務所暮らし。皇族の祈りによる〃浄化〃はブラジルにまで及んでいる▼来年にどなたかご来伯されることに備え、ブラジルに日本文化を広めてきた成果を披露できるように準備をしたい。子供たちによる日本語のお話でもいい、マツリダンス、移民の歴史を織り込んだテアトロなどはどうか。プロミッソンやマリリアで式典を予定していると聞くが、ぜひ若い世代の勢いを感じさせる出し物をお見せできるようにしっかりと準備してほしい。あと、たった1年だ。もう110周年は始まっている。(深)