商議所部会長シンポ=トンネルの先に明るい光=どん底から回復基調へ=(上)=業種により厳しい状況続く

開式の挨拶をする松永会頭

開式の挨拶をする松永会頭

 ブラジル日本商工会議所(松永愛一郎会頭)は先月24日、「2017年下期業種別部会長シンポジューム」をサンパウロ市内ホテルで開催した。11部会の代表者から前期の振り返りと下期以降への展望が語られた。副題『回復途上のブラジル経済―いま打つべき戦略は』は、ブラジル経済が回復基調で、前向きな発表があることを見越して題された。部会により差はあるものの、不況続きのこの3年間という長くて暗いトンネルの先に、ようやく明るい兆しが報告されたシンポになった。本格回復は18年以降とする部会が大半だが潮目は変わってきたようだ。

 進出企業関係者を中心に過去最高の212人が出席、経済動向への関心の高さをうかがわせた。松永会頭は冒頭、「年金制度の改革がどこに着地するか不透明だが、労働法改正案が可決し、インフレ率が縮小するなどいいニュースが続いている。現状を踏まえてどういった発表になるのか楽しみだ」と挨拶した。
 まず、金融部会の栗原裕二部会長(三井住友銀行)によるブラジル経済の動向についての解説が行なわれ、2017年の各種指標の予想値が紹介された。GDP成長率は+0・3%で、14年以来の成長。貿易収支は610億ドルで統計を開始した89年以降最高、インフレ率は3・5%で99年以降最低となった。
 栗原部会長は「財政改革への取り組みがインフレ低下を促し、金融緩和が進んでいる。為替安定、失業率低下が進み、企業投資や個人消費を活性化させる条件が整いつつある」と総括した。
 銀行の貸出残高は昨年からマイナス成長で、今年は微増だがプラスには転じない予想。保険業界は損害、生命、傷害保険合計で実質ゼロ成長を見込んでいる。
 貿易部会の今井重利部会長(伊藤忠)によると、輸出総額は前年上半期比で19・3%増。主な産品の鉄鉱石価格が高騰し、80%以上増額したことが大きく寄与した。輸入は7・3%増。「成長分野や景気変動を受けにくいビジネス分野に積極的に投資するべき」との考えを示した。
 機械金属部会の池辺和博部会長(日立南米社)では、建設機械は3年連続の需要減が見込まれる一方、自動車業界を主要顧客とする切削工具は受注増加傾向。業種によって状況が異なるが、全体的に厳しい状況が続き、本格回復は18年以降と予想した。
 自動車部会の溝口イサオ部会長(ホンダ)は、17年上期の自動車販売台数が4年ぶりに前年同期を上回ったと発表。国内経済指標の好転と輸出に力を入れたことが奏功した。
 日系ブランドの市場シェアは17年上期でトヨタが8・8%(前年9・1%)、ホンダが6・5%(6・2%)、日産が3・4%(3・1%)と堅調を維持した。一方で二輪車は高い失業率に影響を受け、生産・販売共に前年割れが続いている。
 コンサルタント部会の西口阿弥部会長(EY)は「ブラジルは市場が大きいなど好条件が揃っており、投資先としては魅力的な国である」とし、その上で気をつけるべきM&Aのリスクとブラジルの労働訴訟を解説。法律が複雑なため専門家や判事によっても見解が異なることを示唆した。(つづく、山縣陸人記者)

 

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 商工会議所の業種別部会長シンポではコンサルティング部門の西口部会長がブラジルの労働訴訟について解説。15年の労働訴訟受理数は年々増えて約377万件。日本の533倍で、1日に1万件以上受理されている計算になるとか。訴訟の主な原因は管理職の残業代、休憩時間、業務内容、賃金格差など。弁護士が従業員をけしかけて訴訟を起こす、すでに退職した社員が何らかの不満を持って提訴するなど、潜在的なリスクも紹介した。労働法改正が7月に可決し、従業員の通勤時間は勤務時間に含まないなど企業にとって風向きは良くなる。ここ数年の不況で多くの日系企業が事実上の撤退をしたが、回復の兆しが見えた今、各企業がどう切り返すか注目したいところ。