《ブラジル》第69回全伯短歌大会=「千年の命持つ苗植えていく大木と見るは孫か曾孫か」=最高得点歌、酒井祥三さん=来年、日本で記念出版企画も

真剣な表情で題詠を考える皆さん

真剣な表情で題詠を考える皆さん

 第69回全伯短歌大会(椰子樹社、ニッケイ新聞共催)が10日、サンパウロ市の文協ビル内で開催されて39人が参加し、来年の節目となる第70回大会に向けて志を新たにしつつ、歌友との再会を楽しんで歌作りに励んだ。応募された194首の中から、栄えある総合点高点歌には酒井祥三さんが選ばれた。

 椰子樹社代表で司会も務めた多田邦治さんから、初出席者の若藤ユカさん、武田知子さん、小林咲子さん、森原博さんが紹介された。
 総合点高点歌の1位には酒井祥三さん(計40票)。<千年の命持つ苗植えてゆく大木と見るは孫か曾孫か>(28票)、<老ゆれども鍬に除草の体力を持ちて朝朝山仕事する>(12票)。前者が最高得点歌で、「清谷益次短歌賞」も受賞した。
 わずか1点差で惜しくも2位になったのは山元治彦さん(計39票)。〈一命を賭して巨悪にたちむかう若き判事は国の光明〉(20票)、〈君とならどんな苦労もいとわないそんな日がありそして今日あり〉(19票)。
 3位は湯山用さん(計34票)。〈浅学でも鍬一筋の人生に花を添えんと歌詠む晩年〉(22票)、〈孫娘食べて笑って背丈伸び我家に咲いたひまわりの花〉(12票)。
 ニッケイ新聞から「空港」が当日出題され、<移住地の苦労は秘めて空港に背なの曲がりし母と抱き合う>と詠んだ高橋暎子さんが昨年に引き続き1位を飾った。2位には〈出発の時間がせまる空港のロビーでそっと手をふれる君〉(山元治彦)。3位は〈訪日の夢のせ徐々に下降するああ成田空港青くかすみて〉(阿部玲子)。
 上の句を女性が、下の句を男性が詠む「アベック歌合わせ」では<ぬばたまの雨降る夜は人恋しねむれぬままに一人酒くむ>(小林咲子・佐野壮姿)が1位となった。
 受賞者を代表して山元さんは「思いがけない良い点を頂いたが、まだ勉強不足。80歳になって、そろそろ人生の締めくくりとも思うが、ここには90歳を過ぎて立派な歌を詠まれている方がたくさんいる。まだまだ頑張らなくては」と笑顔で語った。
 来年の第70回大会を記念して日本で本を出版する企画案が説明され、本紙の深沢正雪編集長は「70年の間に歌に結晶化され続けた移民の想い、文学的、移民史的な記録をぜひ日本で出版しましょう。皆さんご協力を」と呼びかけた。
 多田さんは「2、3年前から本出版の話を進めてきたが、いよいよ準備を本格化させる時が来ました。来年の第70回大会、椰子樹創立80周年に向けて、皆さんのご意見を積極的にお寄せ下さい」と呼びかけた。

 

□関連コラム□大耳小耳

 全伯短歌大会の途中でJICAシニアの鈴木京子さんがゲスト講演をし、笑いと呼吸が健康の及ぼす影響を説明し、正しい方法をみなで実践した。「日本の老人は80歳を過ぎると、家族が家から出したがらない傾向がある。でもこちらの皆さんは90歳になっても一人でメトロ、バスを乗り継いで熟連クラブまで来る。10歳は若く見える」と感想をのべ、会場の笑いを誘った。当日は梅崎嘉明さん、水野昌之さんら94、5歳の人の元気な姿が会場に。80代半ばの鈴木正威さんは「ここに来ると年寄り臭い歌が詠めなくて困るな。『ケツが青い』とか言われそうだ」と大笑いした。