《ブラジル》モジ軍警=〃異例〃の司令官引継式=兄から弟に紡ぐ思い=元自衛隊員父の薫陶受け

家族や友人に囲まれ祝福された上山兄弟

家族や友人に囲まれ祝福された上山兄弟

 サンパウロ州軍警察モジ・ダス・クルーゼス第17大隊で、司令官の任務が「兄」から「弟」へ引継がれるという同軍警史上〃異例〃の離着任式が、14日、モジ市内SESI教育センターで行われた。兄・上山フェリシオ文彰大佐(48、二世)と弟・久仁広アリー中佐(46、二世)の新たな門出に、家族や軍警関係者ら200人近くが集り、盛大に祝福された。

兄から弟へ職務が引継いだ

兄から弟へ職務が引継いだ

 サンパウロ州軍警は、サンパウロ大都市圏と地方に二分され、第17大隊は同圏内にある35大隊のうちの一つ。モジ近郊の4つの自治体を統轄し、その治安維持にあたるのが任務で、司令官はおよそ500人の隊員を束ねる最高指揮官だ。
 そのような重要な役職に兄弟揃って着任したのには、両親からの薫陶を受け、質実剛健に育てられたことが背景にあるようだ。
 「手に職をつければ、何処でも能力を高めていける。人様が造った国に入ったのだから、世のために尽くせ。全うに働き正当な収入を得よ」―。元自衛隊員という頑強な父・邦弘さん(82、北海道)のそのような教えに触れ、子孫の殆んどが警察や医療、法曹界で働いているという活躍ぶりだ。
 「日系人は体が小さい。体に自信がないと押しにも弱くなる。一歩も引かない気概を持て」との父の思いから、兄弟ともに極真空手に通い、一級を取得。文彰大佐は、南米大会二連覇達成という凄腕の持ち主でもあるという。
 そんな文彰さんが、式典で開口一番に語ったのが両親への感謝の思いだった。久仁広さんにも熱い視線を送り「弟に職務を引渡せるのはこの上ない悦び。治安維持という骨の折れる重責だが、新たな職務での成功を祈る」と期待を込めた。
 それに呼応するかのように、久仁広さんも「困難に直面した際に、公私を問わず、兄は良き友であり助言者だった。心から敬愛し、子供の頃から兄の背中を追ってきた」と語り、職務を引継ぐことに喜びを語った。
 また、これまでの軍警での経歴を振返り、「『明日死ぬ覚悟で生き、永遠の生が続くかのように学ぶ』を座右の銘として精進してきた」とした上で、「第17大隊の司令官になるのが長年の夢だった。州軍警でも歴史ある大隊の一つである重責を担う職務に就任できたことに感謝したい」とした。
 その後、来賓からの祝辞が相次ぎ、元軍警大佐のアルバロ・バチスタ・カミロサンパウロ州議は、「アリーは司令官よりはやく出勤し、退勤が深夜三時になることもあった」と勤勉な人柄に触れ、「何よりも機敏な対人能力や責任感が素晴らしい。彼だけでなく一家から学ぶことは非常に多い」と称賛し、贐の言葉とした。
 その他、元軍警のサンパウロ州議らが多数参席。マルクス・メロ同市長も、「モジ市は、献身的に働く軍警隊員のおかげでこれからも最も安全な町の一つとなるだろう」と軍警関係者の功績を称えると、会場は拍手喝采となった。
 式典を終えて、母・文子さん(79、北海道)は、「ブラジルに移民して粗末な生活の中でも、家庭のなかだけは互いに褒め合い、温かい家庭を築きたかった。その夢が叶って本当に嬉しい」として喜びを噛み締めた。