マナウス=錦戸さん4つ目の学位=好きな仕事にやりがい=多忙な日々楽しむ66歳

日本語の授業で漢字の意味を教える錦戸さん

日本語の授業で漢字の意味を教える錦戸さん

 【アマゾナス州マナウス発】西部アマゾン日伯協会の会長、戦後こども移民の錦戸健さん(66、石川県)がことし5月、アマゾナス連邦大(マナウス市)の日本語・日本文学科を卒業し、自身4つ目の学士号を取った。土木技師として働きながら日伯協会の会長、公証翻訳、さらに学生業と何役もこなしているが、好きな仕事にやりがいを感じ、忙しい毎日を楽しんでいる。

 「どうして薬という字はくさかんむりに楽という字なんでしょうか」。学生たちは一瞬考えた後、それぞれの意見を述べる。11月のある土曜日の朝、日本語を始めて4年目のクラスで錦戸さんが教えていた。穏やかで、時々ユーモアの交じった授業は「日本の歴史や文化を丁寧に説明してくれる」と学生から評判だ。
 西部アマゾン日伯協会で日本語を教えて30年になるが、大学で学んだ土木学を活かし、平日は州政府のインフラ局で働く根っからの土木技師。設計図を書いたり現場を見に行ったりと現役バリバリだ。アマゾナス州で唯一日本語の公証翻訳を請け負っている人物でもあるため、合間に翻訳作業も待っている。
 7歳のとき、家族と石川県からマナウス郊外のエフィジェニオ・デ・サーレスに移住した。通学のため、ほどなくしてマナウス中心部での下宿生活に。入った現地校で3、4年遅れた学年に入ったため学校では馬鹿にされた。
 やがて日本が高度経済成長期を迎え、安くて質の良い日本製品がブラジルにも入ってくるとクラスメートから今度はこう聞かれた。「日本はすごい国なのに、なんでお前はブラジルにいるんだ?」
 見返してやろう、と必死に勉強した。それでも国語のポルトガル語が苦手で、点数を稼ぐために文法を暗記した。大学に入る頃には日本語よりもポルトガル語の方が楽に感じるようになった。
 土木学科を卒業した後も、働くかたわらアマゾナス大で電気工学と物理学を学び、ことし5月には日本語学科を卒業した。「連邦大はお金がかからないし、何よりボケ防止に良いでしょ」と冗談っぽく笑う。
 日本語学科では、学生のみならず教員からも「健先生」と慕われる。教員によると、遅刻もせず、宿題も提出物も忘れない「まさに模範生」。「学生に変に説教せず、知識をひけらかすこともなく、背中で(模範を)見せている」と教員の一人は語る。
 次の目標は日本語学科での修士号。アマゾナス州で非日系人が詠む俳諧について研究する予定だ。いずれ自分でも歌を詠んだり、詩や俳句の翻訳をしたりしてみたいと考えている。引退して悠々と俳諧をたしなむ時間が持てるようになるのは、まだ当分先になりそうだ。(菅野麻衣子通信員)