どこから来たの=大門千夏=(18)

 理由は、これから私が八〇歳になったら、することが無くなるだろうから、日がな一日椅子に座って、首飾りを作ろうという目的と言うか希望を持っているからだ。
 その日のためにあちこちでビーズを集めてきた。
 インドネシア、ミャンマーの発掘品のビーズ、チベットなど少数民族のビーズ、ベネチアのビーズ、ウランをガラスに混ぜて発色させたビーズ、そうだ、ブラジルのインジオが手で穴をあけた水晶のビーズ、それから「聖者のビーズ」とよばれているもの。これはメッカへの巡礼をなしとげ、ハージーの称号を得た人々に与えられる物として作られたもの。などなど一〇年以上かけて集めた珍しいものが引き出しの奥に眠っている。
 すべて自分の足で少しずつ集めたものだけに、どれ一つ手にとっても買った場所の事を、あの日、あの時の事が思い出されて見惚れてしまう。
 八〇歳になったら楽しみが一つ待っていると思うと、年を取るのも悪くない。今から首飾りの作り方を習って特に留め金のつけ方を習っておきたい。
 そんなわけで今回のアクセサリーを作る催しには、すっかり興味を持って座り込んでしまった。
「ハイ、ここにビーズがありますよ。好きなビーズを取って好きなように首飾りか腕輪を作って下さい」
「さあナイロンの糸を通してくださいね」先生ははきはきと優しく指導してくださる。こんなに優しいと私は小学生に帰った気分である。生徒二〇人くらいがテーブルを囲んで熱心にビーズに糸通しをしている。
「おいくらですか。あのオ、材料代」
「いりませんよ、払う必要はありませんよ」またも優しい言い方。
 そう言われても一番安そうな材料に手を出した。縦、横、高さ五㎜くらいの丸い小さな木に色々な色が塗ってあって、ナイロン糸を通す穴が開いている。私は赤い色の木のビーズにところどころ黒を混ぜて、首飾りを作り始めた。今日は三本くらい作ろう。そうすれば錆びた頭でも作り方を覚えられるにちがいない。
 隣の初老のおばさんは私の手先を覗き込んで、
「あら、仕事が早いのね。でもね、こんなこと真面目にやって、はまり込んだら高くつくわよー、私は若い頃やったことがあるの、いろいろな材料を次々買ってね、でも使うのは少しだけ、残りがものすごい量あって無駄が多くて却って高くつくわ。奥さん、こんなことにはまっちゃだめよ」
「はあ、なるほどねー」
「友人にあげても、それ程感謝されないし、材料代はたっぷりかかっているのに、そこまで考えてくれる人はいないものよ」
「はあーなるほど、そうですよね」やっぱりこれ一本でやめとこう。
 糸通しが終わると、先生はきれいなのができましたねと小さな子供をほめるように優しく言ってから、さあこれに留め金を付けましょうねと、ほとんど自分であれよあれよと言う間に仕上げて下さった。それから、
「さあ首につけましょう、後ろを向いて」
「ハイ」私は珍しく素直な気持ちになって後ろを向く、先生は後ろから首飾りをかけて留め金をつけて、
「さあできましたよ。とってもかわいいわよ、良く似合うわ」と、お世辞まで言ってもらい、その気になって私の心は充分満足。
 さて、家に帰ってからも鏡の前に立って出来具合を観察する。