JHサンパウロ=ロボットが問う「人とは何か」=専門家、石黒浩氏が講演=未来社会のあり方問う=200人超、立見客ぎっしり

講演中の石黒氏、椅子に座っているのがジェミノイド

講演中の石黒氏、椅子に座っているのがジェミノイド

 サンパウロ市のジャパン・ハウス(JH)で17日午後、ロボット工学者の石黒浩氏(54、滋賀県)による講演『ロボットと未来社会』が行われた。講演ではブラジルにも2、30年後に訪れると予測しているロボットが社会を支える「ロボット社会」について説明、ロボットを通じ「人とはなにか」という根本的な問いを投げかけた。会場には立ち見客を含めて200人以上が集まるなど、関心の高さを伺わせた。

 大阪大学教授の石黒氏はアンドロイド(人間型ロボ)などの研究開発を手がけている。石黒氏は椅子に座らせた本人そっくりの「ジェミノイド」(遠隔操作型アンドロイド)の肩に手を置き、「今日は〃この人〃と一緒に講演します」と語り始めた。
 日常生活を助けるサービスロボットの研究開発もする石黒氏は、「人間は人間に反応しやすい。誰でも使えるロボットを作るのであれば、こいつ(ジェミノイド)のような人型にしなければならない」と語った。
 人と同じ動作をするのであれば、スマートフォンのように使い方を覚える必要がないという。
 ジェミノイドは、あらかじめ用意した文章を喋らせたり、本人は遠くにいるのに代わりに喋らせたりして遠隔講演をすることが可能。石黒氏がチリのミシェル・バチェレ前大統領と会談した際も、ジェミノイドを先方に送ったという。
 「実際に僕が行くより、彼が行った方が反応が良い。費用は半分で済むし、来場者は僕じゃなくてロボットを見に来る人が多い。皆さん、どっちに興味があります?」と笑いを取った。
 続いて石黒氏がジェミノイドに英語で自己紹介などを喋らせると、会場から拍手が起こった。
 石黒氏は大型店舗のショーウィンドウに様々な表情を見せるロボットを飾ったり、映画や演劇に出演させたりと様々な試みを実践している。
 ロボットに笑みを返したり、その演技に感動する客がいたりと反応があるそう。服飾店にロボットを設置し接客させるという実験では、人間の店員の2倍も商品を売ったという結果もある。
 「感情がないはずのロボットに、人間の方が感情移入して微笑んだり、プログラムされた動作を見て、そこに人間の方が心を感じて泣く…。この単純な仕組み(ロボットの感情表現のこと)に反応する人間の心とは、感情とは、一体なんなのかという疑問が出てくる。人間同士の心の交流が対ロボットでも起こってしまう」と説明した。
 石黒氏によると、人間型ロボットをつくることで「人とはなにか」をより深く考える機会が生まれるという。
 「単に便利なだけではなく、人間について考える機会が生まれる。これは人間にしかできない。それが本当のロボット社会だ。技術の進歩が我々にもたらしてくれるもの」と締めくくった。
 講演後は質疑応答となり、時間ぎりぎりまで質問が寄せられた。参加したダニエル・トーズィさん(39)は、「ロボットに親近感を持つ日本的な考え方から実験の話まで全てが興味深かった。今後も石黒氏の研究に注目したい」と語った。

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 石黒氏が人について考え始めたのは、ロボット開発に関わり始めるずっと前、小学生の頃だそう。「人の気持ちを考えなさい」という教員の言葉に衝撃を受け考え始めたが、年齢を重ねるごとに分からなくなっていった。ロボット工学は「これからの産業だから食いっぱぐれない」と始めたそう。そんな石黒氏は今回が初のブラジル訪問、16日はサンパウロ州立総合大学で講演した。ブラジルの印象を尋ねると「どう発展していくのか、なにが起きるのか予想がつかない面白い国。これからが楽しみ」とのこと。国民ですら予測がつかないブラジル社会。政治家をアンドロイドに任せた方が汚職しなくて良いかも?
     ◎
 石黒氏は、会話が可能なアンドロイドも開発しており、「誉められたがる」という承認欲求を持つようにプログラムしたという。言葉の意味を理解して、声のトーンを落としたり怒ったりと表情や感情の変化を見せるという。会話ができるアンドロイドは、膨大な記憶が蓄積できる。物忘れをしないので「あれ、そんなこと言ったっけ」がなくなり、同じ話を繰り返し聞かされることもなくなる。日本人の性格には、ロボットが外国語を教えた方が成果が上がるという話も。コロニアの日語学習もいつかロボット先生が授業をする日が来るだろうか。