日本の若者、ブラジルで何を得た?=交流協会の研修生体験記=最終回=到着した次の4人、今後の期待聞く

4月7日に到着したばかりの2019年度研修生たち(中央4人、左から2番目が幸崎大樹さん)

4月7日に到着したばかりの2019年度研修生たち(中央4人、左から2番目が幸崎大樹さん)

 前回まで連載した5人の2017年度研修生は3月に帰国し、もう新たな人生を歩み始めた。
 それからひと月経った4月7日、ブラジルには新たに研修を始める2018年度研修生が到着した。
 今年の研修生4人の一人、ヤマト商事で研修を行う幸崎大樹さん(24、兵庫)に、参加した経緯とこれからの1年間への期待を聞いた。(交流協会運営委員=石川達也)
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 幸崎さんは、北海道大学教育学院を休学して研修に参加した。ブラジルへは、「日陰者の研究者」になるために来たのだという。
 世間と足並みを揃えて生きつつも、完全には同化しきれない自分にずっと違和感を抱いていた。大学時代にはスノーボード競技に熱中し、その分野で思うがままに生きる人々に憧れた。しかし、就職活動の時期になると世間に流され始めた。
 同期と同じことをして流されようとしたが、どこかに無理があったのだろう。原因不明の潰瘍性腸炎を発症すると一ヶ月寝込んで、初めて自らの死を意識した。
 「いつか海外留学したいな」「いつか好きなだけスノーボードしたいな」などの『いつか』は、自ら動かなければ手に入らないものである―という事実に、ふと気付いた。
 「これからは思うままに生きよう」と生き方を変える覚悟を決めた。幸い体質に合う治療薬が見つかり、社会復帰。自らの生き方を学問の道に定め、大学院へ進学した。
 専門分野は社会学で、社会的に流行する言説と現実の乖離について関心を持った。「LGBTの人たちはカミングアウトして権利を主張すべきだ」という言説の流行と現実の乖離を調べるため、札幌はすすきののゲイバーでアルバイトをした。
 ゲイ男性と話すうち、自分が差別について考えることを無意識的に避けてきたことに気付いた。自分と「異なる」社会生活をする人たちとの関わりの中には、大いなる気付きがあると知った。
 これを機に社会的少数派の人々の事を理解し、そこから得た知見を社会に還元する「日陰者の研究者」になることが目標となった。
 ブラジルに興味を持ったきっかけは、就職活動で心身ともに疲れきっていた時にテレビで見たカーニバルに沸くブラジル国民の姿だった。自分と異なる生き方をする人を受け入れた先にある、内面の深化と世界の広がりの予感を覚えた。
 「いつか」夢見た海外留学を実現させる機でもあった。現地社会に入り込める交流協会の制度を知り、とまどうことなく応募した。
 研修先のヤマト商事ではグループ系列の外食店での研修が予定されており、同年代のブラジル人青年らと共に働くことになる。ポルトガル語に自信は無いが、学生時代の飲食店でのアルバイト経験を活かして、働き振りでは負けないつもりだ。自ら積極的に話しかけて沢山の友人を得ようと意気込む。
 教誨師とシャーマンにも会ってみたい。教誨師は刑務所などで道徳や倫理、宗教の講話等を通じて犯罪者の更正活動を行う職業。〃日陰者〃の犯罪者が変わる瞬間には一体何が起きているのか強く興味を惹かれる。
 研究のため、帰国後には刑務所の法務教官になることも考えており、ブラジルの事情を知ることは比較研究の面で重要だ。
 シャーマンは超自然的存在(霊、神霊、精霊、死霊など)と交信する職能・人物のこと。科学合理主義全盛の現代において彼らは〃日陰者〃。シャーマン文化の色濃く残る北東伯地域にはぜひ実地調査に出かけたいと目を輝かせる。
 「自分のものさしだけが唯一絶対の基準と考えていた頃は、世界がとても狭かった。色々な考え方の人と出会い、決め付けや思い込みの外に踏み出した時、世界は新しくなると知った。今は病気になったことすら良かったと思える。ブラジルでは、色々な経験をしてもっと世界を広げたい」と意気込んだ。
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 幸崎さんがこれからの研修で、実際に得るものは何か――。来年3月の帰国の際にはぜひ体験談を寄稿してもらいたい。
 なお、交流協会は4月2日、2019年度研修生募集を日本で始めた。
 募集期間は、2018年4月2日~7月31日。募集人数は15人程度。参加要件は、①2019年4月1日時点で成人している者②高等学校卒業もしくはそれと同等以上の学力を有する者③犯罪歴が無い者④日本事務局が開催する募集説明会(通年で日本全国で開催中)に参加した者。
 参加費用として100万円が必要になる。研修生は、日本での半年間の派遣前研修を経てから、渡伯することになる。詳細は同協会HP(http://anbi2009.org/)から確認できる。
 ブラジル日本交流協会は、1981年設立の旧社団法人日本ブラジル交流協会が前身。その時代を含めて、現在までに800人以上の研修をサポートしてきた。帰国後、研修生達はブラジルでの経験を活かし、様々な分野で活躍しているが、そのうち6%はブラジルに〃戻って〃生活している。