黄熱病ワクチンの正しい知識=サンパウロ総合大学医学部感染症学教授 アルツール・チメルマン博士

(※デング熱とアルボウイルス・ブラジル協会の会長)

黄熱病のワクチン(Foto Rovena Rosa/Agencia Brasil)

黄熱病のワクチン(Foto Rovena Rosa/Agencia Brasil)

 黄熱病ワクチンによる副作用を恐れ、接種を拒んでいる夫を持つサンパウロ市在住の日系人女性から、「医学的見地からワクチンの効能と副作用に関する正しい認識を広めるため、本稿を掲載して欲しい」との依頼があった。この文章は、サンパウロ総合大学医学部感染症学教授のアルツール・チメルマン博士にその女性が質問して回答を得たものを、公証翻訳人に翻訳してもらったもの。ワクチンに対する正しい知識を持ちたいところだ。(編集部)

▼現行の対策

 ブラジルでは、2種類のワクチンが準備されている。公共ネットワークを利用したオズワルド・クルス財団(Fiocruz)の「ビオマンギーニョス社製」と、民間ネットワークを利用した「サノフィ・パスツール社製」のワクチンだ。双方とも鶏卵内で培養された弱毒化ウイルスから生成されている。
 ビオマンギーニョス社製のワクチンは、その処方において、牛由来ゼラチン、エリスロマイシン、カナマイシン、L―ヒスチジン塩酸塩、L―アラニン、塩化ナトリウムおよび注射用水が含まれている。
 一方、サノフィ・パスツール社製のワクチンには、ラクトース、ソルビトール、L―ヒスチジン塩酸塩、L―アラニンおよび生理食塩水が含まれている。
 双方とも同様の安全性および効果性の特徴を有している(投与後10日後に95%、そして30日後には99・0%の免疫力を獲得)。

▼処方

 ブラジルで接種が推奨される地域に居住する、或いは黄熱病に罹る危険性がある、または接種証明書の携行が義務付けられている国内外に旅行する生後6カ月以上の幼児や青少年、そして成年者の方々が対象だ。
 現在、サンパウロ州、リオデジャネイロ州、ミナス・ジェライス州は黄熱病に罹るリスクがある主要な州と見なされているが、他の州でも発生している。
 そのため、ブラジル保健省の最新の勧告では、全国の地域でワクチンを利用する事を推奨している。
 60歳以上の高齢者、または糖尿病、心臓病、肺や腎臓の病気などコントロールできる慢性疾患を持つ方は誰でも、ワクチンを接種できる、或いはすべきである。
 これらの方々に加えて、2歳以下の子供達も、常にワクチンの全量接種を受けるべきである。というのも、分割接種を受けた場合、これらの方々は免疫システムに存在する有効性が変化しているため、適切な抗体の発達を妨げるからである。
 これらの方々は全て、診断を受けた主治医の処方箋を通して接種する。この処方箋は、患者により示された疾患のコントロールを証明しており、ワクチン接種を許可する。
 この病気は、ブラジルの風土病だと考えられているので、一部の国々では、ブラジル人旅行者達に対してワクチン接種証明書が要求されている。
 このワクチン接種の国際登録証明書は、「国際予防接種証明書」(CIVP)と呼ばれている。CIVPの発行には、その許可を受けている公共の、または民間サービス機関へ個人的に赴く必要がある。そして、写真付きの身分証明書とワクチン接種履歴が記載されている注射手帳を提出する必要がある。
 ワクチン接種が不可となった場合、医師はその免除理由を説明した黄熱病ワクチン接種免除証明書を発行しなければならない。この証明書は、流行地域から訪れる人々にCIVPを要求する国々において、非ワクチン接種者の入国を許可する。
 ブラジルを訪れた外国人観光客で黄熱病に感染した幾つかのケースが過去数カ月間に報告されており、その内の6人が死亡している。いずれも、ブラジルに居住または訪問する人に義務付けられている黄熱病のワクチンを受けていなかったという。

▼処方禁止

◎生後6ヶ月以内の乳児
◎HIV感染者、症候性で臨床検査により証明された重度の免疫抑制の影響を受けた方。
◎病気や投薬治療により重度の免疫抑制の影響を受けている方。
◎ワクチン接種後6週間以内に神経脱髄性疾患の症状が表れた患者。
◎乳児が6カ月を過ぎるまで、授乳中の母親への接種は禁止。もし、接種を避ける事ができない場合は、乳児への授乳を10日間止める。詳細は、小児科のアドバイスを受ける。
◎臓器移植を受けた患者。
◎ガン患者。
◎ワクチンに含まれる物質(鶏卵およびその誘導体、牛由来ゼラチンなど)に関連したアナフィラキシー反応の病歴を有する方。
◎胸腺疾患の病歴がある患者(重症筋無力症、胸腺腫、胸腺の欠如または外科的除去)。
◎妊娠中は使用しない事が原則であるが、例えば流行中などの場合、リスクの程度に応じて接種を受けるかどうか判断すべきである。

▼投与スケジュール

 ワクチン接種が推奨されるブラジルの地域では、通常の接種は、生後6カ月以降。10年以上前に接種した小児、青少年、そして成年者は、再度ワクチン接種を受ける必要がある。
 CIVPを要求する国々や地域に行く旅行者は、生涯に1度だけでも接種した事を証明する事が推奨されている。予防接種を必要とする状況では、少なくとも旅行のする10日前に投与を受ける必要がある。

▼皮下注射

 ワクチン接種前、接種中および接種後の注意
◎ワクチン接種前には、特別な注意は必要ない。
◎発熱の場合は、改善するまで予防接種の延期を推奨。
◎全身性エリテマトーデスまたは他の自己免疫疾患の患者へのワクチンの投与は、これらの患者に免疫不全症の可能性があるため、注意を払う必要がある。
◎骨髄細胞からの移植を受けた患者も、免疫学的な状態と疫学的なリスクを考慮して、移植後24カ月以上経過した後に接種する事が望ましいとされている。
◎ワクチン接種後に如何なる深刻な、或いは予期しなかった症状が表れた場合、投与したサービス機関に通知する必要がある。
◎深刻な、或いは予期しなかった如何なる副作用も、医療保健当局に通知する必要がある。

▼効能と副作用

 黄熱ワクチンは非常に副作用の少ない安全性の高いワクチンとして知られている。他のワクチンと同様に、次に示すような副作用が起きる可能性に注意する事が重要であるが、このワクチンがもたらす効能は、その潜在的なリスクをはるかに上回る事に留意すべきである。
 副作用を恐れてワクチンを接種しない事には如何なる根拠もなく、ワクチンの接種を拒む人々に悲惨な結果をもたらす可能性がある。黄熱病ワクチンの最大のリスクは、黄熱病のワクチンを接種しない事である。

▼ワクチン使用における副作用

◎患部の副作用の中で、注射部位の痛みは、接種を受けた成人の4%で起こり、幼児ではやや少ない。中軽度の痛みが、1~2日続く事がある。
◎発熱や頭痛、筋肉痛などの一般的な症状が最も頻繁に生じる。初回ワクチン接種の際には約4%、2度目の接種では2%以下でこうした症状が表れる。
◎非常に稀であるものの、アレルギー反応、神経疾患(脳炎、髄膜炎、中枢神経系および末梢神経系に関与する自己免疫疾患)、および臓器疾患(ワクチンウイルスによる感染症と同様の損傷を引き起こす) これらの重篤な副作用は、70万回分のワクチン接種のうち1回の割合で起きるとされる。
◎皮膚発疹、蕁麻疹、喘息などのアレルギー反応は、接種を受けた13万人から23万人に1人の割合で起きている。1999年から2009年にかけて投与された10万人の内、0・023人にアナフィラキシーが発生している。(翻訳=共田英之、公証翻訳人)

▼問合せ先

 問合せ先は、アルツール・チメルマン博士の診療所(住所=Avenida Paulista, 2073, Edificio Horsa I, conjunto 1301/13º andar、電話=99597・7883)まで。月曜から木曜の午後1時以降。