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どこから来たの=大門千夏=(90)

 「ヨーロッパはどこの国が一番気に入ったの?」と聞くと「どこもかしこも美しい、きれい、清潔、豊か、金持ち、そして歴史があり文化あり教育あり総て言うことなし…と立て続けに言って…でも人間はどうなんだろう? しかし私はヨーロッパには住みたくない。……どうしてかしら?」と最後は独り言を言った。
 別れ際「さようなら鈴木さん」というとびっくりした顔をして「えっ、何で私の名前知ってるの 」「あら、リュックに書いてあるわ」と答えるとア、ソオカーと言って声を立てて笑い、またねと手を振って別れた。
 別れ方も全く余韻を残さず、余情を残さず、あっさりと消えていった。
 一人で二ヵ月も旅していると、日本人が恋しくなり、日本語を話したくなる。日本人とみると傍に寄りたくなり、何かとしゃべりたくなる。友人と二人で旅している私の方がべとべととしていたのではなかっただろうか。それを思うとちょっと恥ずかしい。
 かつて私は友人と二人で三ヵ月インド、ネパールを旅したことがあった。五〇日目くらいに汽車に乗った途端、友人は車中をくまなく歩いて日本人を探しだし大喜びし、遠くから、どもるように「日本人がいたいたいた」と上気した顔で叫んで、相手の気持などお構いなく私たちの席に連れてきた。その後二日間ずっと一緒にしゃべり通しだったことがある。長く旅しているとそのくらい日本人恋しくなるものだ。
 彼女の一人を寂しがらず、人と群れず、人を人とも思わない横柄さ、そして勇気。このような性格は、どのようにして培われたものであろうか。
 あれから二年経つ、今年も又、風呂敷包みをぶら下げて、エネルギーに満ち満ちて、我がもの顔で…もしかしてサンパウロ市のリベルダーデ辺りを歩いているのではないだろうかとキョロキョロする時がある。
 「ブラジルはどお?」
 「気に入ったわ汚いけど。ちょっと住んでみたい。…あら、どうしてかしら…?」そう言うに違いない。
 彼女には「もう一度逢いたい」と、懐かしく思いだす人である。    (二〇〇九年)

 体臭(インド)

 インデイラ・ガンデイ国際空港に着いた。
 建物の中は涼しくさわやかだが、一歩外に出た途端、全身から汗が噴き出し洋服はべたべた、髪の毛まで風呂上りのようにねっとりする。この暑さ、ただ事ではない。
 そうだ。やっとインドに来たのだ!
 この国際空港の駐車場の中を、数頭の牛がゆったりゆったり歩いている。うわー やっぱりここはインド!
 タクシーに乗って中心地に向かう。ホテルに近づいてきたら急に土砂降りになった。アスファルト道を流れる水の色が真茶色。
 「これは牛の糞が雨で流されているからでーす」マリコが物知り顔で説明する。
 出発前、息子が「インドはものすごく汚いそうだよ。国中、牛の糞だらけ、皆お腹をこわして帰ってくるそうだから覚悟しといたほうがいいよ」といったけど、まんざら嘘ではないみたいだ。
 翌朝、ホテルの周りを歩いたら、なるほど道路の真ん中は昨夜の雨できれいに掃除されているが、両脇にはどろどろに溶けた牛の糞が、流れゆくところがなくてべっとりと積まれている。強烈な匂いはする。

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