110周年記念リレーエッセイ=若手・中堅弁護士が見た=日伯またぐ法律事務の現場=第7回=ブラジル研修雑感~机の上の法律も面白いけれど~

 昨年、ご縁があってサンパウロ市スマレの法律事務所にて半年ほど研修をさせていただくことになった。同事務所では会社法部門に配属させていただいたのであるが、もとより労働法全般に興味があり、比較法的にもブラジルの労働法が特徴的で勉強してみたかったので、折に触れて労働事件にも多く同席させていただいた。
 例えば、日本で雇用していた労働者についての裁判があるとのことで、サンパウロから車で3時間ほどの遠方まで行ったことがある。裁判官は、事前にこちらの主張を十分に検討していない節があって、企業側には終始厳しい態度で臨んできた。
 結果として判決できわめて多額の賠償金を支払うよりも、和解でいくらかの解決金を支払った方がよかろうということで、渋々ながら和解に応じることとなった。日本であれば、別のタイミングを設けて和解のすり合わせを行うものと思われるが、きわめて膨大な数の訴訟が係属するブラジルの労働裁判所に悠長な時間はなかったのかもしれない。
 労働者の保護に重きを置いた訴訟ではあったものの、日本法を学んできた身としては、公平な裁判だったといえるだろうか少し疑問に思うとともに、迅速な裁判としては歓迎すべきなのだろうとの感想を抱いた。
 というのも、この日に先立って他の事件を傍聴した際には、10年前の民事事件について未だに攻防を繰り返している姿を目の当たりにし、受験時代にまじないのように唱えていた「迅速な裁判」の意義・必要性を痛感させられたからである。
 公正と迅速の追求にあたり、改正民訴法がどのように活用されるのか興味深い。
 また、自己研修の名目で、友人と共にベレンなど北方に足を伸ばしたこともある。日中に風土、歴史、美術などに触れて、夕方には、炎天下であることを良しとして現地のビールを堪能する旅程であった。酒のつまみを探そうと周囲を物色していると、都会とは比べようもない簡易な出店にも消費者保護法の冊子が置かれていることに気付いた。
 おもむろに手にしたが、ポロシャツにジーパンというラフな格好をした旅行者が笑みを浮かべながら法文を読んでいたためであろう、店員には随分と訝しがられジッと見られた。
 実際に読まれているかどうかはさておいても、交渉能力等で事業者に負けて「弱者」となる消費者の保護を図ろうとする点は、使用者に対して「弱者」となる労働者の保護とパラレルであり、冊子の常備を義務付けるブラジル法の姿勢には、弱者を保護しようという精神が感じられたものである。
 紙幅の関係もあり、学んだことのごく僅かしか記載できていない。しかし、この研修を通じて、歴史、文化、慣習、法意識が異なれば、(社会的)弱者を守る方法や法律も違ってくるという教科書的な――法学部の講義で第一に勉強するであろう――事実を肌で感じることができ、法律の面白さをより一層感じることができた。
 机上の勉強だけでは足りないので、今後も多くのことを直に体験して知見を深めていきたい。
 幸いにして勉強すべきことは数多くあるが、日本において弱者となりやすい外国人の方々の支えになりたいとの志を徹すことを誓い、結びの文とする。(※本リレーエッセイはこれで第1巡を終了)

照屋さん

照屋さん

照屋レナン・エイジ

1992年3月3日生 26歳。サンパウロ市にて出生。8歳のときに母の出稼ぎに連れられて渡日。以降、日本在住。2016年9月司法試験合格。2017年3月から9月までブラジルにて研修。2018年現在、第71期司法修習生。