宇宙開発から原子力潜水艦まで=海軍中枢になう日系将校が講演=日系初将官の和田、コガ両氏

少将2氏を迎えた歓迎会

少将2氏を迎えた歓迎会

 ブラジル広島文化センター(平崎靖之会長)とわんわん会(同会長)の共催で、講演会「伯海軍の今」が先月29日、同センター講堂で催された。ブラジル海軍で初の日系人将官となった和田典明少将、コガ・ミズタニ・セウソ少将の2氏が招聘され、最新の軍動向を紹介する貴重な機会となった。国民生活の安全を守る海軍の任務や、ブラジル初となる原子力潜水艦開発の一大事業に至るまで、知られざる海軍の今に注目が集まった。

 大統領府付国家安全保障室で調整長官を務め、サイバー対策、宇宙開発、原子力利用など国家戦略の中枢を担う和田少将。まずは海軍の歴史と概要を説明した。
 伯海軍は、ナポレオン戦争中にポルトガル王室が退避してきたことをきっかけに、1822年に創設。兵士約8万5千人、艦船103隻、航空機95機を保有、昨年度予算は23億レ以上に上り、アメリカ大陸では米国に次ぐ規模を誇る。
 その任務は、海上や国境を接する河川沿岸の防衛に留まらない。アマゾン河流域など奥地の医療施設のない居住者に対し、流域沿いを病院船で巡回し、歯科治療や医療を施す市民社会活動(ACISO)を実施するなど多岐に及ぶ。
 和田少将は「海軍はブラジル人のためのもの。その機能と海軍がもたらす機会を知っておくことは有用。この仕事に賭ける情熱を少しでも理解頂ければ」と期待を寄せた。
 続いて、リオ州で潜水艦取得に係る調整事業管理官を務める技師のコガ少将は、伯海軍の一大事業である原子力潜水艦開発事業(PROSUB)について解説した。
 同事業は、08年に仏との間で締結された技術移転協定に基づき、通常動力潜水艦4艦と原子力潜水艦1艦を建造する計画だ。伯海軍はディーゼル・エンジンを動力源とする通常型は保有しているが、原子力潜水艦の開発は今回が初めて。
 同事業には既に70億レアル以上が投資され、同州イタグアイ市の海軍基地に造船所や金属組立工場などを設備。年度末には最新式の通常潜水艦1艦が公開される見通し。原子力潜水艦については基礎計画が承認された段階だが、「実現性があり実行可能な計画だ」という。
 ブラジルは7千キロ以上の長い海岸線を有し、領海及び排他的経済水域を含む面積は350キロ平方メートルにも及ぶ。貿易手段の95%は海上輸送により行われ、大陸棚には85%の石油資源が埋まっており、「ブラジルの安全保障は、海上防衛によるところが大きい。近代的で強力な海軍が必要だ」と強調する。
 経済、人口、領土の3つの観点から超大国とされる米、欧、露、印、中は既に原子力潜水艦を保有しており、「これにより国の規模に見合った軍備力が備わる」といい、「戦争は誰も望むものでない。だが平時だからこそ将来の戦争に備えなければ」と戦略的意義を語った。
 講演会には、谷口ジョゼ県連副会長、池崎博文ACAL会長、森田聡在聖領事ら30人近くが参加。その後、ニッケイ・パラセホテルで晩餐会が催され、両氏を歓迎。最後は軍歌「同期の桜」を合唱し、解散となった。

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 ディーゼル・エンジンの通常型潜水艦は、燃焼に必要とされる酸素が潜水艦内部に限られるため、充電や換気のため定期的に水面に浮上する必要があり、戦時にはそこを狙われる可能性が高い。ところが、原子力潜水艦は、原子炉動作に酸素を必要とせず、長期間の連続潜航が可能となるため、戦略的な有用性が格段に上がるという。なお、原子力潜水艦は長さ100メートルで、およそ6千トン。部品95万点からなり、建造には5年以上の歳月を要するとか。この事業により、5千人以上の直接雇用、1万2千人以上の間接雇用を生み出すのみならず、経済発展に資する戦略的重要性を担う企業の振興にも繋がるとか。波及効果の高い巨大プロジェクトと言えそうだ。