スザノ市=認知症サポーター養成講座初実施=高齢化するブラジルで日本式広める=市民110人がサポーターに

認知症サポーターの証『オレンジリング』を掲げる受講者

認知症サポーターの証『オレンジリング』を掲げる受講者

 サンパウロ市近郊にあるスザノ市(ホドリゴ・ケンジ・デ・ソウザ・アシウチ市長)は先月18日、同市福祉活動施設で、日本式の「認知症サポーター養成講座」を開催した。援協傘下のスザノ・イペランジャホーム、全国キャラバン・メイト連絡協議会(本部=東京都)、国際協力機構(JICA)サンパウロ支所が協力。同講座をブラジルの地元自治体が開催するのは今回が初めて。同市民110人が参加し、認知症サポーターとなった。同講座の開催を主導したラリッサ・アシウチ市長夫人は「スザノ市を老後も安心して暮らせる街にしたい。定期開催できるよう検討をすすめる」と話している。

 認知症サポーター養成講座は、日本国厚生労働省が2005年に始めた福祉政策の一つ。約2時間の講座で認知症を正しく理解し、認知症患者の生活支援ができる人材を養成する。日本では主に地方自治体が開催し、現在までに1千万人以上が受講した。
 日本社会の少子高齢化が進む中、深刻化する介護士・介護施設不足が高齢者福祉へ及ぼす悪影響を、市民同士が助け合う地域介護の実現で緩和する狙いがある。ブラジルも少子高齢化が進行しており、対応が急がれている。
 実施のきっかけとなったのは、JICAシニアボランティアとしてサンパウロ日伯援護協会(援協)に赴任中の長谷川美津子さんの取り組み。援協の地方巡回診療活動に同行した際、被診療者の認知症に対する知識が不足していることを知り、巡回先や援協傘下の高齢者施設で講座を行うようになった。長谷川さんは同講座を行う講師資格を持っている。
 活動を知ったラリッサ市長夫人がイペランジャホームに同市内での開催を打診。イペランジャホームと長谷川さんは、日本での講座実施主体である全国キャラバン・メイト連絡協議会と長谷川さんの所属するJICAに協力を仰ぎ、準備を整えた。

ポ語のスライドショーを使って講座を行う長谷川さん

ポ語のスライドショーを使って講座を行う長谷川さん

 講座は日本で実施されている内容と同一のものをポ語で実施。認知症の予防方法や症状を悪化させてしまう対応、患者家族の心構えや地域住民が認知症だった場合の対応方法などをスライドショーとDVD映像を使い説明した。
 受講した渡辺絹枝さん(63、群馬県)とクデケン・ソニアさん(65、二世)は「知らなかったことも多く、とてもためになった。ブラジルは高齢者に対する家族同士の助け合い意識は強いが、社会としての取り組みは弱く、不安を持っている」と話した。
 今回の取り組みに対しイペランジャホームの三島勝彦セルジオ施設長は「市は施設の運営に対して非常に親身に協力してくれており、恩返しをしたいと思っていた。今後も助け合うことが出来れば」と話している。
 スザノ市は日系人の集住地域で、受講者の約半数も日系人だった。ホドリゴ市長も勝亦・レイナルド・孝同市事務局長も日系人で市の日本に対する理解は深い。
 市は同講座の定期開催を検討しているが、講座を行う講師は全国キャラバン・メイト連絡協議会が定めるキャラバン・メイト養成研修を受けなければならない。
 JICAには日本の技術を途上国へ移転する際にかかる費用を補助する『草の根技術協力事業』制度がある。過去には援協が自閉症児支援施設PIPAを設立する際に必要な専門家派遣を同制度の援助を受けて行った。
 同制度の適用についてJICAサンパウロ佐藤洋史次長に尋ねた所「講座の活動は素晴らしい。専門家としての知見を持つ長谷川さんが居る間に可能性を検討したい」と話している。認知症サポーター養成講座はすでに、ドイツとイギリスで現地団体により運営が実現されている。