急に「日本の誇り」と言われても

全米オープン・テニスを制した大坂なおみ(USTA/Darren Carroll)

全米オープン・テニスを制した大坂なおみ(USTA/Darren Carroll)

 9日にテニスの世界4大大会(グランドスラム)のひとつ、全米オープンを、日本人の母親を持つ大坂なおみ選手が優勝したことに日本中が沸いた。もちろん、コラム子も喜んだが、同時に日本人のあまりのお祭り騒ぎぶりにちょっと複雑な気持ちを抱いた▼個人的なことで恐縮だが、コラム子にはまだ幼い息子と娘がいる。非日系のブラジル人の妻との間にできた2人は日本とブラジルの二重国籍者。なおみ選手の優勝には、実はこの観点から強い共感を覚えた。別に「同じハーフの子供を持つ」という境遇をもって、そうでない日本人と差別化を図りたいなどという意図は全くない。ただ「日本でハーフの子どもとして生まれる気苦労」はすごくわかるから、そういう気持ちがわいたのだ▼案の定、日本からは、「なんだ。こんなときだけハーフを日本人扱いして。自分たちが普段受けている差別を考えると腹が立つ」「やっぱり、“この人(なおみ選手)は日本人に見えない”なんて言っている人がいる。いつになったら日本人のハーフ差別は解消されるの」といった日本在住のハーフたちの発言が、ツイッターなどを通じてあがり、話題を呼んでいる▼日本はとかく「純粋な日本人」という考えにとらわれすぎている慣習が古くから根強い。それを端的に表しているのが、「一般の公立校における、ハーフの子どもへのいじめ行為」というもの。これは、たとえばハーフの芸能人の子供の頃の思い出話に頻繁に例としてあがることだ。日本の場合、大人はこうした問題に分別のある人は多いのだが、子供に差別感情を抱く傾向がどうしても強い。コラム子の場合も日本在住時に、個人的に横浜のアメリカン・スクールに通っていた子供を何人か知っていたが「公立校だと、やはり受け入れられるかが怖いと思っている人が多い」という話を彼らから直接聞いている▼また、コラム子は妻とは日本で出会って、結婚生活も最初は日本で過ごしていたのだが「日本でハーフの子供を生むと、一般的な日本社会と隔離された環境を選ばないといけないから」と、子作りをブラジルですることを希望。それがサンパウロ市に越してきた大きな理由のひとつだ。そして2人の子供をもうけた▼今でも「日本に帰りたい」と全く思わないということはないのだが、すでにブラジルの学校環境で何の違和感もなく受け入れられているわが子のことを思うと、「容姿や育ってきた環境の違いゆえに差別でもされたらかわいそうだ」とどうしても懸念の方が先に生まれてしまう▼また、サンパウロ市に来たら今度は「日本に暮らそうと思って住んでみたけれど、できなかった」という、日本での生活経験のある日系二世や三世、四世の人の話もよく聞く。彼らの場合はわが子と違い血縁関係が日本人だけの人や、日本語もそれなりに話せる人も少なくないのに、ちょっとしたことで差別された気分を味わう人も少なくなかったようだ▼そのためにも、これからの日本には、もっと普段から、国際結婚で生まれた子供や、他の国で育ってきた日本人の血をひく人たちに、もっと普段から寛容になる、あるいはそのための社会作りをしていく必要があるのではないだろうか。何かめでたいことがあったときだけ、まるで国の手柄として利用するかのように「同じ日本人として誇り」と言われても、当事者としてみては嬉しい反面、戸惑うことがあっても仕方がないと思う▼悲しいかな、今回のなおみ選手の快挙で、「五輪やノーベル賞を受賞した人に限り、日本生まれのハーフの人に二重国籍を与える特例を」などと言いはじめている国会議員が早くもいるという。「何かしないと、日本人として認めてやらない」と言ってるみたいでかえって差別的なんだが。(陽)