汎米将棋大会がロスで初開催=ブラジル勢、高野さんが5位入賞=高嶋名人あわや2位、時計ミス

参加者記念写真

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 全米将棋支部連合会主催(大野正俊連合会長)の第1回パンアメリカン将棋大会が5~7日、米国カリフォルニア州トーランス市で開催された。北南米6カ国から80人が参加し、ブラジル勢では高野勇治さん(二世、52)が個人戦大人部門で5位に、子供部門でリビア・デ・トレドさん(三世、16)が2位入賞を果たした。日本から外国人初女流棋士のカロリーナ・ステチェンスカさんと中井広恵女流六段も訪れ、大会を盛り上げた。

 汎米地域の将棋文化振興を目的に開催された今大会には、日本、米国、カナダ、メキシコ、ペルー、ブラジルから子供30人、大人50人の選手が参加。大会初日は大野会長宅で米国チームと参加国合同チームでの団体戦が行われ、米国チームが勝利。その後は同市公民館で個人戦が行われた。個人戦子供部門では米国在住のユモト・タクミくんが、大人部門では同じく米国在住の冨田桂次さん(48、第7回国際将棋フォーラム優勝者)が優勝を果たした。
 ブラジルからはブラジル将棋連盟の吉田国夫会長、ジェームス・M・トレド副会長、高嶋ホベルト第71代全伯名人ら大人6人と子供2人が参加。ブラジル勢で唯一入賞を果たした高野さんは「ブラジル代表から入賞者が出て一安心」と胸を撫で下ろした。優勝対抗馬との評判のあった高嶋全伯名人は2位決定戦で勝勢を築くも、時計の操作を誤り、時間切れ負けで6位となった。個人戦子供部門で2位入賞を果たしたリビアさんは「色々な人と将棋を指せて嬉しかった」と喜んだ。
 大会後にはカロリーナさん、中井女流六段との対局会が行われた。個人戦優勝者の富田さんとカロリーナさんの記念対局では、カロリーナさんが勝利。観戦した高野さんは「やはりアマとプロの間には大きな力の差がある。プロの指し手を間近で見ることが出来て幸せだった」と語った。
 今大会開催のきっかけは、昨年10月に小倉で行われた日本将棋連盟主催の第7回国際将棋フォーラムの席上で、カロリーナさんとコロンビア、メキシコの代表選手がパンアメリカン大会を開催したいと大野会長に相談したところにある。大野会長は帰国後、全米将棋支部連合会で大会開催の是非を諮り、会員から賛意を得ると翌11月にはブラジルを訪れ、直接参加協力を取り付けた。
 大会を終え、大野会長は「3日間の白熱した大会を通じて、大いに親睦をはかれましたこと大変嬉しく思います。大会は大成功との感想をいただいており、遠路はるばるお越しいただいたブラジルのかたがたに厚く御礼を申し上げる次第です」と話し、今後も将棋文化の振興に励んでいくと語った。
 大会結果は以下の通り。【個人戦子供】1位=ユモト・タクミ(米)、2位=リビア・デ・トレド(伯)、3位=アッチルス(米)、ツカサ(米)。【個人戦大人】1位=冨田桂次(米)、2位=サトウユウタ(加)、3位=イクタヨウヘイ(米)。

 

■ひとマチ点描■ベレンの愛棋家・高野勇治さん(二世、54)

汎米大会の表彰状を持つ高野さんと高嶋さん(左から)

汎米大会の表彰状を持つ高野さんと高嶋さん(左から)

 汎米将棋大会で5位入賞を果たした高野さんは元海上自衛隊員。現在はパラー州の日本国在ベレン領事事務所に勤めている。同州トメアスー市に入植した父母の下、1964年にパライバ州ジョアンペッソーア市で生れた。教育のため、6歳で日本に家族で帰国し、帰化。県下最古の歴史を持つ山口県立萩高等学校理数科に進学した。
 外国生活に憧れ、大阪の英語専門学校に進学し、海上自衛隊に入隊。短期間で曹位への昇進が可能になる試験に配属艦内で唯一合格するなどするも、自由な暮らしを求めて退職。ブラジルへの移住を決めると、JICAの海外移住研修所で農業研修を受け、農業者として22歳で再び当地に渡った。農業や旅行業を経験しポルトガル語を修め、27歳でベレン領事事務所に就職し、現在に至る。
 将棋は日本時代に覚えたが、強くなったのは30代以降。プロ棋士養成機関である奨励会出身の江越克将さんがベレンに逗留した際、手合わせして敗北。それから3年間の週末は、江越さんに挑戦するのが常となった。気づけば棋力はブラジル内屈指となっていた。
 ベレン在住で共に江越さん越えに挑んでいた高嶋全伯名人とは親友の間柄。汎米将棋大会では高嶋さんより好成績を収められたことを喜ぶ一方、高嶋さんの時計操作ミスでの6位という結果を惜しむ。「高嶋は優勝争いできる実力があるのに勿体無い。次の大会までに将棋の指し手では無く、このおっちょこちょいな性格を治してやらねば」と友情を感じさせる語りぶりで汎米大会を振り返った。(達)