PT(労働者党)の冬=ダニエル・ペレイラ著

ハダジ氏(右)とグレイシ・ホフマンPT党首は、ルーラ容疑者を見舞ったあと、抗議集会に参加(18年6月29日、Ricardo Stuckert)

ハダジ氏(右)とグレイシ・ホフマンPT党首は、ルーラ容疑者を見舞ったあと、抗議集会に参加(18年6月29日、Ricardo Stuckert)

 PTハダジ候補者は、ルーラ元大統領との「へその緒で結ばれた関係」から生ずる利益と負債を、同時に獲得した。
 イボッペ選挙調査によると、9月中旬わずか7日間で支持率が11%急上昇し、大統領選挙戦第2の地位を固めた。1週間前のダッタ・フォーリャ選挙調査によると、拒絶率も9%急上昇し、ボルソナロ候補者と肩を並べる高い拒絶率となった。その理由は、複雑でない。PTルーラ派は、反PT派の寄生宿主であるからだ。一方の急成長は、その結果として他方を強化する。
 なぜなら、ブラジルが直面する巨大な道徳危機、政治危機、経済危機の直接かつ疑いようのない張本人はPTであり、PTの政権復帰は、後退へ報奨を与えることを意味する。
 ハダジは、個人的美点をもっている。「PTのなかで、もっともPSDBに近い穏健な政治家」と指摘される彼は、サンパウロ大学法学科卒業後、経済学修士号、哲学博士号を取得した。
 そして、全国最大都市サンパウロ市長を経験したが、最近十数年間で最低の15%未満の支持率を残して去った。
 しかしながら、ハダジの大きな問題点は彼自身ではなく、その持物にある。ハダジは、服役中の囚人の代理人である上、倫理と経済に災禍を引き起こしながら、今日に至るまで何も自己批判できないPTの驕りを背負っている。その驕りは、PTが権力を回復したならば、再び同じ事を繰り返すであろうと推測する権限をブラジル国民に与えている。
 PTの驕りの本質は「ペトロブラス汚職」発覚以前の「メンサロン汚職事件」(訳者注:国会議員買収汚職事件)の最高裁裁判で、セルソ・デ・メロ裁判官が下した次の忘れがたい判決文言に定義されている。
 「共和制に無知でその諸制度を陵辱し、邪悪な性傾に魅惑されて権力を犯罪利用に支配し、法治民主国家の象徴を貶めた」
 月曜日、セルジオ・モロ判事は、国民がそれを忘れないように小さな力添えをした。第1回選挙の6日前、6月より彼の管轄下にあったパロッシ元大臣の司法取引にもとづく機密供述書の一部を解除した。
 公表された一部分でパロッシは、「ルーラ元大統領は、2007年よりペトロブラスの不正取引を知っていたばかりでなく、同社の油田開発事業からPT権力計画のための汚れた資金を調達するよう同志たちを指導した」と供述した。
 パロッシによれば、2010年と2014年のジウマ大統領選挙運動には、選挙裁判所に申告した支出額の約4倍にあたる、あわせて14億レアルが支出された。
 ハダジは、このような特定の泥沼に身を投じなかったが、他の党仲間と同じく自己批判を拒否し、ルーラは「不当に逮捕された」と宣告する。
 あたかも、PTの汚職がある個人の過失の所産であるがごとく、「誤りを犯した者は、その誤りの代償を払うべきである」と、いつも儀礼的に繰り返す。
 事実は、そうではない。連邦検察庁の起訴状によれば、PTはひとつの犯罪組織として機能した。ボルソナロの民主主義への軽蔑を批判するPTも又、「メンサロン汚職」と「ペトロブラス汚職」で民主制基礎を破壊した。
 ルーラ政権の元官房長官ジョゼー・ジルセウは「メンサロン事件」と「ペトロブラス事件」で有罪となったが最近の取材会見で「PTが権力を掌握するのは時間の問題である」と断言した。
 ハダジは、「もし自分が政権に就いた場合には、ジョゼー・ジルセウの役割は何もない」と明言せざるを得なかった。
 そうであろうか?
 ハダジは、PT内過激派と共にしないようにみえるが、大統領選に選出されたならば同過激派を抑制できると想像するのは、多分無邪気さの極致であろう。
 選挙運動で元市長は、「曖昧さ」で均衡を保とうとする。PT首脳部が「ベネズエラ民主制」に連帯を表明する一方で、ハダジは「隣国は正常な情勢になり」と認める発言をする。最近、大統領になったならば、改革をするために新憲法制定国民議会を召集可能とする案件を作りたい、と明言した。
 ハダジ自身は不同意のように見えるが、その提案擁護を強いられている。悪しき前兆である。ハダジの観測気球は、ボルソナロ陣営にそれと平行した反応を引き起こし、ハミルトン・モウロン副大統領候補は、現行憲法改正のために有識者委員会の招集を提案した。
 元教育大臣、元サンパウロ市長のハダジは、PT党活動に積極的に参加したことはなく、それゆえに彼の考えることと、党が彼に命ずる決定事項の間にはたえまない衝撃が生ずる。最近ハダジは、経済補佐役の「社会保障制度改革は緊急を要しない」とする発言を公に否定した。そのほか、彼自身の政権網領である「中央銀行はインフレ目標のみでなく、雇用創出目的を追求すべきである」との考え方にも抵抗した。
 ハダジ候補者の次のような政権網領は、すべてPT思想の支柱である。
(1)政府歳出上限を定める改正憲法
(2)労働法改革の廃止
(3)油田開発における政府権力の回復(パロッの供述によれば、党選挙運動資金調達目的のために政府顕著区が行使された)
(4)公立銀行を地方開発振興に用いる(良い提案に思えるが、PT政権下で経済社会開発銀行は、国内強大企業育成名目のもとに、JBS社やオデブレヒト社その他に巨額融資を行い、その見返りに企業は巨額賄賂金を提供した)
 PTの政権復帰は、PTが「ゴウペ(政権転覆)」(訳者注:ジウマ大統領罷免)の実行犯とみなす、PTの犯した横領→発覚に主役をはたした報道界、検察庁、司法権への復讐の脅威をもたらす。
 ジョゼー・ジルセウの検察独立権取り消し提案のほか、PTは「報道の検閲」を意味する湾曲的表現と思われる「報道の社会的制御」導入を意欲する。ジウマ大統領罷免以来政治的に孤立したPTは、大統領選決選投票で政権を再獲得し、その先の政権安定を保証するための戦略をすでにもっている。
 ルーラ元大統領は、日和見主義の代表であり、PTの汚職システムの昔仲間である、MDBその他、中道政党との連立に向け門戸を解放しておくよう、ハダジに助言した。
 ルーラは、クリチバの独房から指揮をとり続けている。ハダジの勝利は、ルーラの勝利である。ハダジは、ルーラに恩赦を与えないと誓うが、拘禁から解放するための可能なすべての法的手段をとると約束する。
 どこへ目を向けてもそのシナリオは、すでにブラジルが知っており、今まさにそこから脱出しようと苦しんでいる悲劇を再演するように見える。