サンパウロ新聞、73年の歴史に幕=急激な読者減少と経費膨張で=鈴木編集局長手記を要約掲載

廃刊のいきさつを書いた鈴木鈴木雅夫編集局長の記事

廃刊のいきさつを書いた鈴木雅夫編集局長の記事

 サンパウロ新聞が20日付で廃刊の告知を出した。今月22日付けが通常号としては最後、その後、年末に出す2019年新春特集号(1月1日号)をもって廃刊になると公表した。同日付コロニア社会面トップには、鈴木雅夫編集局長が「本誌廃刊のいきさつ」として、その経緯を記している。大見出しには「急激な読者減と経費膨張が引き金/度重なる運転資金ショートで決断」とある。経営が苦しいのは本紙も同様、まったく他人事ではない。サ紙創刊は1946年10月であり、2019年新春特集号まで入れれば73年目となる。コロニア史に残る大事件であり、鈴木編集局長の記事を以下要約する。(編集部)

◆投資家に振り回され大山鳴動して鼠一匹
 当初は8日付けで社告を出す予定だった。ところが1日に、かつてサンパウロ新聞にかかわった人物が「歴史ある新聞をつぶすのは忍びない。協力できないか考えたい」と接触してきた。社の財務状況を説明したところ、「10日間時間がほしい」と待たされ、その後も「もう少し時間がほしい」と引き延ばされた。
 サ紙側が出した条件は「少なくとも半年間の運転資金」「社員に対する改革の具体策の説明」だった。鈴木編集局長は15日付紙面で社告を出すのが限界だと考え、13日ごろから返答を迫ったが、「今のところは『可能性が高い』としか言えない」と前進がなかった。
 最終的に18日夕刻、物別れに終わった。鈴木編集局長は《相手が考えていたのは、新聞社の名前の利用価値だけで、読者や社員の事は眼中になかったのだ。読者の皆さんには大変申し訳なく思っている》と社告がギリギリになったことを謝罪した。
◆社員は解雇し、清算業務主体に
 最近の状況を《数年前から購読部数が激しく落ち込み、さらに印刷費用、配送費用の値上がりも続き、これまで通りの新聞発行が難しくなってきたため、対応策を考えていた》と説明。
 今年に入って特に悪化した。《印刷費や配送費の支払い遅延が頻繁に起こり、以前から続いていた社員への給与遅配がさらに深刻化するなど、運転資金が不足してきた》ことに加え、INSSへの負担金、FGTSへの支払いも滞るようになり、《10月に廃刊を決断するまで追い詰められた》とある。
 そして《10月下旬に社員に対して廃刊を通知し、正式なかたちではないが社員の解雇も告げた。解雇までの間にFGTSの未払い分を納めれば、社員の最低限の権利は守れると判断したためだ》とし、未消化の有給休暇の清算に関しては、《社主エレーナ・ミズモトは、不動産(社屋)売却後に必ず清算する旨を確約した文書を作り、自ら署名した上で該当社員に渡すと明言した》と説明する。
 その上で、《読者の皆さんに対しても社員に対しても73年間発行し続けてきた新聞を廃刊にするのは断腸の思いだった》と綴る。

サンパウロ新聞20日付1面に掲載された社告

サンパウロ新聞20日付1面に掲載された社告

Web版として存続するか?=ブラジルに興味持つ日本人向け

 鈴木編集局長は、コロニア社会面のカタに「Web版は実現できるのか/資金難を克服するのが最初の課題」という今後の指針を示す記事も掲載した。
 同編集局長は日本で現在、社員の給与を確保するために取引先や関係先を回る日々を送っている。《しかし、廃刊というのは「敗戦処理」と一緒で、協力してくれる人は少ない。でも、「できることはしてあげる」と言ってくれる人もいる。涙が出るほどうれしい。新聞社が誠心誠意付き合ってきたからだろう》と記す。
 いわく《Web版による「新しい新聞」がどのようなものなのか。まだ、漠然としていて皆さんに紹介できるだけの具体的な内容になっていない。ただ、読者は今までのように日系コロニアだけを中心としたものではなく、日本や世界各国に暮らす日本人で、ブラジルに興味を持っている人や、ブラジルの若い日系人を対象にするのがいいのではないかと考えている》と「新しい新聞」像を述べた。