コパ・アメリカに日本出場=「日系移民の日」直前にブラジル戦の可能性も=ブラジル代表チッチ監督、留任かけ本気で挑む

チッチ監督(Lucas Figueiredo/CBF)

チッチ監督(Lucas Figueiredo/CBF)

100年以上の歴史を持つコパ・アメリカ

 6月14日から7月7日にかけて、ブラジル各地を舞台にサッカー南米選手権(コパ・アメリカ)が開催される。昨年5月、南米サッカー連盟(Conmebol、以下「南米連盟」)は「2019年のコパ・アメリカには、日本とカタールが招待される」と発表し、「1999年パラグアイ大会以来、20年ぶりに日本の参加か?」とファンは色めき立った。しかし、日本サッカー協会側は、19年の1月にはアジア杯が開催されて過密スケジュールになること、大陸別大会に選手を招集できるのは1年に1回のみという国際サッカー連盟規定があること、コパ・アメリカ開催中にJリーグを中断できないことなどもあり、ずっと正式な返事を避けていたが昨年12月11日に、ついに日本サッカー協会は正式に出場を認めた。発表までの背景と大会の見所を紹介したい。

 1916年に初めて行われたコパ・アメリカは、100年以上の歴史を誇る。代表チームの大陸別選手権には、他にも欧州選手権、アジア杯、アフリカ・ネーションズ杯、北中米カリブ地区のゴールド杯などがあるが、これが最も古い。
 前回2016年に米国で開かれた際は、100周年記念大会として南米連盟、北中米カリブ連盟(Concacaf)合同で、16カ国が参加して行われたが、今年のブラジル大会は従来通り、南米連盟所属10カ国に招待の2カ国を加えた12カ国の参加で行われる。
 12カ国を4チームずつの3グループに分け、各グループ上位2位までの6チームと、3位になった3チームの内、成績上位2チームまでがベストエイト、決勝トーナメントに進出する。栄光の決勝は7月7日、リオのマラカナン・スタジアムで開催だ。

南米連盟のフライングから半年後の正式出場発表

 日本は2011年アルゼンチン大会にも招待されていたが、東日本大震災の影響もあり、辞退した経緯がある。
 南米連盟側からすると「招待した」事実はあるため、日本からの正式な参加返答がないままにことを進めてきた。プロモーション映像に日本代表の映像を使い、公式ツイッターでも、南米10カ国の国旗と日の丸とカタール国旗の絵文字付きで「コパ・アメリカはこれら12カ国で争われる」とツイートしており、日本出場を既成事実化しようとしていた感がある。
 だが18年12月11日、ついに日本サッカー協会はコパ・アメリカ出場を正式に認めた。
 一時は翌2020年に東京五輪を控えている事から、「東京五輪イヤーに23歳以下となる、22歳以下の代表を派遣してはどうか?」という議論も出ていたが、日本サッカー協会としては年齢制限のない代表チームで戦う方針だ。
 日本代表の森保一監督は、「貴重な強化の場。本気の南米チームを相手に経験を積みたい」と発言しており、ロシアW杯後に日本代表の中核として抜擢され、ここまで華々しい活躍を見せている、堂安律(20・フローニンヘン)、中島翔哉(24・ポルティモネンセ)南野拓実(23・レッドブルザルツブルグ)の出場に期待が集る。
 2013年のコンフェデ杯、14年のW杯、16年のリオ五輪に今年コパ・アメリカを合わせると、日本代表は7年間で4回目のブラジル開催の主要サッカー大会への出場となる。短期間にこれだけ当地へ日本代表が来るのは、歴史的に珍しいといえる。
 とはいえ戦績を見ると、日本はこれまでの3大会で9試合戦い、勝ったのはリオ五輪のスウェーデン戦のみ。決勝トーナメントには一回も進めていない。ブラジルの地で一つでも多くの勝利を挙げ、そして決勝トーナメント進出の結果を日系ブラジル人にも届けたいところだ。
 開催都市はリオ、サンパウロ、サルヴァドール、ベロ・オリゾンテ、ポルト・アレグレの5都市だ。各都市一つずつのスタジアムだが、サンパウロに限っては、西部のモルンビ競技場と東部のアレーナ・コリンチャンスの、二つのスタジアムが使用される。

17年に行われた親善試合でセレソンと戦った日本代表(Lucas Figueiredo/CBF)

17年に行われた親善試合でセレソンと戦った日本代表(Lucas Figueiredo/CBF)

 日本はコンフェデ杯、W杯、リオ五輪の9試合は7都市でプレーしたが、くじ運の巡り会わせで、日系人が最も多く住む、サンパウロ市での試合は一度もない。
 6会場中、2会場がサンパウロということもあり、日本代表も1試合ぐらいはサンパウロで試合を行う可能性が高い。
 もしも、サンパウロで日本代表が戦う場合、開幕戦が理想的な舞台だ。なぜなら開幕式は「日本移民の日」の直前の6月14日、場所はモルンビー競技場、対戦相手は地元のブラジル代表になるからだ。もしそうなれば大変な盛り上がりが予想される。運命の組み合わせ抽選は1月24日だ。

W杯後に新戦力も出てきたセレソン

 話をブラジル代表に移すと、今大会は監督チッチにとって、留任が懸かる大切な大会だと言える。
 昨年のロシアW杯では8強止まりだったものの、「チッチは前回の2014年ブラジル大会の直後からチーム率いていたわけではない。むしろ、前任者のドゥンガ時代が散々だったのを、2年未満でよく建て直した。2022年のカタール大会まで時間を与えるに値する」との声が大きく、チッチは留任した。

昨年の親善試合で、セレソンはライバルのアルゼンチンにも勝利している(Lucas Figueiredo/CBF)

昨年の親善試合で、セレソンはライバルのアルゼンチンにも勝利している(Lucas Figueiredo/CBF)

 とはいえ、「カタールまで白紙委任状」とはいかないのも事実だ。地元開催のコパ・アメリカゆえに、一定の成績を収めることが求められる。最低でも決勝に進出しなければ首も危うい。例え決勝に進出しても、ライバルのアルゼンチンに敗れて準優勝にでもなれば、感情的になった国民やメディアが解任を要求するかもしれない。つまり、留任を確実にするには優勝するしかない。
 〃チッチ・セレソン〃は、昨年のロシアW杯後の親善試合6試合を6戦全勝だった。同じ期間で16人もの新顔を代表にデビューさせたアルゼンチンほど思い切った起用は行ってはいないが、FWや中盤に新戦力も起用し、既存のチームに融合させている。

期待がかかる若手リシャルリソン(Lucas Figueiredo/CBF)

期待がかかる若手リシャルリソン(Lucas Figueiredo/CBF)

 中でも活躍が目立ち、「怪我さえなければ、コパ・アメリカのメンバー入りは確実」とされるのが、W杯後の6試合に全て出場、途中出場が大半ながら、ネイマールと並ぶ3得点を挙げたリシャルリソン(21・エヴァートン)だ。
 中盤にも、加入したばかりのFCバルセロナで定位置を掴みかけているアルトゥール(22)や、リオ五輪で金メダル獲得に貢献したワラセ(23・ハノーヴァー)、27歳と遅めの初選出ながら、11月の2試合で評価を挙げたアラン(27・ナポリ)などが出てきている。
 W杯後の6試合で無失点の守備陣に目を向けると、GKはアリソン(26・リバプール)、エデルソン(25・マンチェスター・シティ)で磐石。ディフェンダーには、ロシアW杯出場組に、デデー(30・クルゼイロ)、パブロ(27・ボルドー)などの実力者が割って入り、レベルの高い競争を繰り広げている。
 「セレソンは、欧州の強豪に勝てない事が問題。その他の国々にはいくら勝っても…」との懸念は消えない。だからこそ、南米勢、アジア勢と戦うコパ・アメリカでは強さを見せ付ける必要がある。
 セレソンは2004年ペルー大会、2007年ベネズエラ大会で連続優勝した後、3大会連続で4強にも届かないでいる。
 だが、地元開催で優勝を逃した5年前のW杯の雪辱を果たすためにも、ファンや協会が「チッチで2022年カタール大会を戦う」との決意を固めるためにも、必勝体制で今年のコパ・アメリカに挑む必要がありそうだ。(井戸規光生 記者)