「アマゾンは世界のものではない」=環境保護より農地開発を重視?=軋轢起こすボウソナロの方針

ポーランドで開催されたCOP24の一幕。この会議で、次回開催国は伯国と公表されるはずだったが(Unclimatechange)

ポーランドで開催されたCOP24の一幕。この会議で、次回開催国は伯国と公表されるはずだったが(Unclimatechange)

 ジャイール・ボウソナロ次期大統領がテメル政府に働きかけ、COP25(第25回気候変動枠組条約締約国会議)の招致を取り消させた11月27日。この時点では、ポーランドのカトヴィツェで12月2日~14日に開催されたCOP24で、COP25は伯国で開催と発表されるばかりだった。それだけに、急きょ別の開催国を探さざるを得なくなった国連などは慌てた。

パリ協定離脱を考えるボウソナロ氏

 ボウソナロ氏は大統領選挙の最中から、パリ協定からの離脱や国連脱退を口にしていた。11月28日には、「パリ協定を遵守すれば、アンデスから法定アマゾンを経て大西洋に至る、1億3600万ヘクタールの土地開発を諦めねばならない」との考えも明らかにしていた。
 伯国がCOP25の招致を取りやめた事などを知ったマクロン仏大統領は、G20サミット開催前日の11月29日、「パリ協定を離脱すれば、メルコスルと欧州同盟(EU)が締結するばかりになってきていた自由貿易協定(FTA)に反対する」と語った。
 マクロン大統領はこの発言を、同日取り決めたばかりのアルゼンチンとの貿易合意に関する会見の場で行った。つまり、アルゼンチンとの貿易合意は結べても、伯国が加わるメルコスルとEUが結ぶ貿易合意には賛同できないというのだ。
 だが、ボウソナロ氏はその直後、マクロン大統領の発言を軽くいなし、「伯国が自国の財産であるアマゾンの森林伐採や土地開発を行うのは当然で、他国に口を挟まれるいわれはない」と反論した。あくまでも「アマゾンは伯国のものであり、世界のものではない」との意向の表明だ。

森林伐採による土地開発とその結果

 ボウソナロ氏は、伯国経済を牽引している農牧業を推進するには、アマゾンを始めとする森林地帯を開発し、農牧地を増やす事が不可欠と考えているようだ。だが、森林伐採で農業生産が本当に向上するのだろうか。
 確かに、土地が増えれば生産は一時的には増える。だが、中長期的な視点での生産増加は誰にも保障出来ない。
 それは、伯国北東部を中心に起きている干ばつや、それに伴う家畜類の死、灌漑用水の不足などを考えれば明白だ。農牧用地だけ増えても、灌漑用水や家畜に飲ませる水がなければ農産物の増産はありえないし、人間が飲む水さえ確保できない事態が起こりうる。
 森林伐採が拡大し、植物や動物の生態系に異変が起きれば、従来は生産出来ていた農作物が採れなくなる可能性がある上に、温室効果ガスの排出量も上がってしまう。
 世界銀行の協賛で行われた研究によれば、農業生産などに伴う温室効果ガス排出量は、総排出量の25%だが、森林伐採で農牧地を広げ続けるなら、その割合は70%に至りうるという。
 また、農業関連の温室効果ガス排出量の半分は農業用地の3分の2を占める食肉生産用の牧場などから排出される上、家畜用の餌となるトウモロコシその他の農産物の生産分も含めた水やエネルギー消費を考えると、食生活の見直しも必要だとの提言もなされている。

伯国は気候変動による影響で世界79位

 12月4日に出た報告によると、17年の伯国は、世界168カ国中79番目に異常気象の影響を受けたという。
 1998~2017年の20年間で見た場合、洪水や土砂崩れその他の天災で死亡した伯人は14万5千人とされ、その間に費やした災害処理費は年平均で170万ドルに上るという。20年間の経済的損失で見ると、伯国は世界で18番目に損失が大きかった。
 もちろん、これらの異常気象が全て、地球温暖化のせいとはいえない。
 だが、研究者の多くは、温室効果ガスの排出量増加による気候変動と、台風やハリケーンの発生数増加は密接な関係があるとし、このまま温暖化が続けば異常気象は更に増え、被害の規模は広がると警告を鳴らす。
 異常気象などの影響が大きいのは貧しい国や新興国で、17年の被害で見たランキング上位は、プエルトリコ、スリランカ、ドミニカだ。
 伯国の79位というランキングは、洪水などの直接的な被害をまとめたもので、干ばつなどの影響は含まれていない。
 国立宇宙調査研究院のカルロス・ノブレ氏によると、伯国での異常気象は、ここ12年間で急速に増えているという。
 同氏が挙げた例の一つは、2005年と2010年、2015年に異常干ばつを記録したアマゾン地方だ。この地域では、2009年と2012年に大洪水も起きた。
 また、19世紀から観測記録が残っている北東部では、2012~17年に記録的な大干ばつが起きている。
 南東部では2014年に同地方としては史上最悪の水危機が起き、ブラジリアでも2016年に深刻な水危機が起きた。

海を取り巻く異変も起きている

 ノブレ氏が直接触れた訳ではないが、伯国の海岸部や島で、海岸沿いの土地の侵食が増え、道路の陥没や家屋の倒壊が報告されているのも、気候変動の影響の一つだ。
 聖州からサンタカタリーナ州にかけた海岸部で、ペンギンやウミガメ、イルカやクジラ、海鳥などの死体が数多く見つかっている。7~9月に海岸に打ち上げられた動物は1万5547頭(鳥類を含む)で、17年の年間総数の1万2971頭を上回った。しかも、動物の大半は死んでおり、生きていたのは801頭だけだった。
 もちろん、死体の中には、銃弾を撃ち込まれたアシカや、羽が何箇所も折れた海鳥、口の先に頑丈な輪がはまり、餌が食べられずに死んだと思われるイルカなどが含まれていたようだから、全てが自然の異変による死とはいえない。
 だが、通常なら生きた動物が10%位見つかるのに、7~9月は5%程だったのは、餌不足などで動物が弱っていた事と関係がありそうだ。
 だが、その餌不足の理由を推測すると、海水温や水質の変化でプランクトンの量などに異変が起き、従来のように餌が確保出来ないとか、より遠くまで行かないと餌が見つからないといった変化が起きているのではと考えてしまう。
 地球温暖化と海洋の温度などの関係を調べた学者が、酸性雨などが増えて水質が変化している事や、海洋が予想していた以上に熱を吸収し、温暖化を抑制してくれていた事がわかったと報告した記事を見ているからだ。

ノルウェーがアマゾン保護資金を増額

環境政策変更で増加が懸念される不法伐採(パラー州での取り締まり、イメージ映像、ASCOM SEMAS)

環境政策変更で増加が懸念される不法伐採(パラー州での取り締まり、イメージ映像、ASCOM SEMAS)

 ちなみに、地球温暖化を抑制するのに不可欠な温室効果ガスの排出量規制に関連し、オブセルヴァトリオ・ド・クリマ(OC)が11月21日に、17年の伯国の排出量は前年比で2・3%減ったと発表した。
 OCによると、同年のガス排出量減少は、法定アマゾンの森林伐採量が前年比で12%減った事が大きな理由だという。森林伐採に伴う温室効果ガス排出量の変化は予想以上に大きく、アマゾンの森林伐採による温室効果ガス排出量は、前年の6億100万トンが5億2900万トンに減少した。他方、森林伐採が11%増えたセラード地帯は、温室効果ガスの排出量が、1億4400万トンから1億5900万トンに増えている。
 森林地帯は温室効果ガスである二酸化炭素を吸収して酸素を生産してくれるため、伐採量が減ると、温室効果ガスの排出量も減るのだ。
 法定アマゾンの森林保護のために世界各国が基金を作り、支援するのはそのためだ。特に力を入れているのがノルウェーで、17年は1億5900万レアルの支援を行った。この額は、その前の2年間の森林伐採量が連続して増えたために減額した後のものだ。
 同国は12月に、16年から17年にかけての森林伐採量が12%減った事を評価し、19年の支援額を2億6600万レアルに、60%引き上げると通達してきた。
 だが「選挙年は不法伐採が増える」との通説通りに、17年から18年にかけての森林伐採量は13・7%増えており、支援額はまた減るだろう。新大統領が森林伐採による農牧地開発を公に認めれば、森林伐採拡大に拍車がかかる。2020年までと約束された支援金が、同年限りで打ち切られる可能性もありそうだ。

FTA交渉継続希望が意味するものは?

環境会議招致を取り消させた翌日にブラジル銀行文化センターで記者会見を行うボウソナロ氏(Valter Campanato/Ag. Brasil)

環境会議招致を取り消させた翌日にブラジル銀行文化センターで記者会見を行うボウソナロ氏(Valter Campanato/Ag. Brasil)

 就任前から、環境保護団体や環境活動家から目を付けられそうな言動が目立ったボウソナロ氏。12月3日付アジェンシア・ブラジルは、「G20サミット直前に、ボウソナロ氏がメルコスルとEUのFTA交渉継続を望むとアルゼンチンのマクリ大統領に語っていた」と報道した。
 もし本当なら、マクロン大統領の言葉を聞き、パリ協定離脱を考え直す可能性はゼロではない。FTA交渉は20年以上かけて進められてきたもので、12月10日にも両ブロック関係者の会合が持たれた。
 ボウソナロ氏が森林伐採や農牧地開発に固執して、FTA交渉をふいにし、諸外国からの支援打ち切りや国際社会の信用喪失という事態に直面するかは、現時点ではわからない。
 唯一パリ協定離脱を決めた米国に追随し、ボウソナロ氏が「伯国の利益第一」と銘打って伯国国民、果ては世界中の人々に損失を与える事のないよう願いつつ、新政権の発足を見守りたい。(鈴木倫代記者)