ボウソナロ新内閣が発足=「政治家より国民のために尽くす」=古く澱んだ池に澄んだ大量の水=聖市在住 駒形 秀雄

 1月1日、うす曇りの首都ブラジリアで各界要人列席の下、ジャイール・ボウソナロ氏の第38代大統領の就任式が無事挙行されました。全国各地から11万人もの国民がこれに参集し、三権の広場は大衆の祝福の言葉で満たされました。
 翌2日には各省庁の実務を遂行する新閣僚たちも正式に任命され、旧来とは別の清新メンバーによる内閣が発足しました。それは、昨年行われた総選挙では、連邦警察のラヴァ・ジャット作戦などの摘発を受け、多くの既成政治家、カシッケ(ボス)が軒並み落選となり、全く新しい人たちが選ばれ、登場して来たからなのです。
 これは例えて言うならば「古く澱んだ水を湛えてた池に、大量の新しい、きれいな水が流れ込んで来たようなもの」です。その恩恵を受ける国民に「今度こそは」と大いに期待されている状況なのです。(別表参照)
「ところで新体制になったことは分かったが、これからどうなって行くのか、その役を担って行くはどんな人間なのか? こちとら素人にはさっぱり見えてこない。その辺知りたいところだね」声が聞こえて来ます。
 さて、内閣発足してまだ10日も経っていない、これから具体策が出てくるのでしょうが、この辺の「知りたい」を皆様と一緒に点検してみましょう。

新閣僚は何をやってくれるか

新しく就任した内閣(Foto Valter Campanato/Agência Brasil)

新しく就任した内閣(Foto Valter Campanato/Agência Brasil)

 先ずボウソナロ新大統領、63歳、元軍関係の経歴があるので、今までの言動と相まって相当全体主義的な、又は格式ばった政治をやるのでないか、と見られていました。
 しかし、就任前後になると過激な発言は影をひそめ、我々にも分かる言動が増えて来ています。元旦の就任式では、「我々は政治家のための政治ではなくて、国民のためになる、国民に尽くす政治をする」と宣言しています。
「労働者を中心に据える過度の社会主義はとらない」とも表明しているので民間経済界も好感、期待を寄せ、株式市場の初日には株価が3・5%もアップしました。長身(187センチ)で外見も良いのでこれから機会が増える国内外の首脳との会合でも据わりが良いかと思われます。
 さて大統領、いくら口先でうまいことを言っても肝心の経済が駄目で、「俺らの懐は冬の風」では国民は満足しません。反対運動も起こるでしょう。ボウソナロ氏も自身が金儲けには強くないと認識しているのか、「経済のことは彼、ゲーデスに聞いてくれ」と幹部人事も含めて同氏に一任の形をとっています。
★そのパウロ・ゲーデス氏は、シカゴ大学でリベラル派経済学を学び、ブラジルでは金融、投資関係の実務者です。
 自由経済信奉・年金制度改革・複雑な税制の合理化整理・公社民営化、などをやるとして居り、自分の気に入ったスタッフなども固めています。その方針がうまく貫ければ、この国の経済を近代国家なみの成長発展の方向に導いてくれるだろうと期待されています。
★新政権の一つの目玉人事はセルジオ・モロ氏の新法務大臣任命です。
 モロ氏はパラナ州クリチバ地方連邦裁判所で政治家の大型汚職摘発に辣腕を振るい、その厳正さで広く国民の支持を集めた人です。軍出身勢力の力も生かし汚職体質の改善や、一部に崩壊も見られるこの国の司法、検察の正常化に努力するでしょう。
 具体的にはノルデステやリオの一部に見られる様な、「犯罪組織幹部が刑務所の中から指令を出して銀行襲撃やバス焼き討ちをやる」などの無法行為を取り締まり、一般市民が安心して暮らせるような社会形成に尽力してくれるものと期待されています。
★農務大臣のテレザ・クリスチナさんは国会内の『農政派』の実力者です。閣内では目立つ女性議員(DEM)ですが、国の重要産業・農牧業の振興に期待しましょう。
★科学技術大臣にはブラジル初の宇宙飛行士となった、マルコス・ポンチスさんがなりました。知名度、人気抜群の空軍士官です。
★外務大臣はアラウージョさん。外務官僚でしたが意外の人事と言われました。反共、親米で知られておりボウソナロさんと相性が良い様です。
★さて、この辺で話題転換、大統領夫人=ミッシェレ・ボウソナロさん(38歳)のご紹介です。就任式では大統領に寄り添い、各界権威筋の間にあり、堂々のファースト・レディー振りをご披露しました。

ボウソナロ新大統領の前に、手話で演説したミッシェレ夫人(Foto Marcelo Camargo/Agência Brasil)

ボウソナロ新大統領の前に、手話で演説したミッシェレ夫人(Foto Marcelo Camargo/Agência Brasil)

 着用していた服がケネデー夫人やレーガン夫人のモデルを連想さしたとか、それは何某とか言う著名のデザイナーの作で絹製、御代は何万レアルだったとか、女性陣の目と口(FOFOCA)を楽しませてくれました。
 しかし、ミッシェレ夫人は「乳母日傘」の裕福な家庭で育った人ではありません。ブラジリア近郊の一般勤労者家庭に生まれ、学校も普通の公立学校で学びました。その後、連邦議会の事務局に職を得て、ここで現夫、ボウソナロ氏と出会い、結婚したのです。
 自分が育った質素な環境を見てきたせいか、早くから恵まれない階層の人たちへの支援、社会福祉活動に関心を示し、協力して来ました。聾唖者との会話手段「手話」(LIBRA)の使い手でもあり、大統領就任式では夫(大統領)に先立ち、手話で国民に挨拶し、多くの人たちの共感を呼びました。同女はエバンジェリスタ信者で、女の子の母でもあります。

議会なしでは実務は進まぬ

 新閣僚がすばらしい施策を考え出しても、これの実現にはお金が、議会の賛同が必要になります。ボウソナロ陣営は選挙期間中は、「自陣の政策を実行するために議員に金を渡したり(メンサロン)はしない」、「政策への賛同を得るために政府ポスト(大臣、局長)提供を材料にはしない」と言明していたために、議会対策や与党形成工作が出遅れている感があります。
 新政権として今、早急に解決必要な案件の一つに『社会保障(年金)制度』の改革があります。今年だけで3千億レアル〔8・6兆円!〕の赤字が見込まれ、今対策を講じなければ年金制度の破綻、引いては国の財政の大混乱が予想されています。
 年金制度改革には過半数の議員の得なければなりませんが、その動向のハッキリしない政党、数だけで30以上もあり、中々多数可決という見通しが立てられないのです。
 次に求められているのが『税制改革』です。ブラジルには税金の種類が50以上もあると言われて、これの整理、合理化も前から言われながら、出来ないでいます。新しい税を創るとか、税率を変えるとか言うと、利害のからむ団体がたちまち反対の声を挙げるからです。
 日本で消費税を数%上げるとか、先延ばしにしろとか、何年も大騒ぎをしていますが、同じことです。これも議員過半数の賛成を得なくてはなりませんが、今度の政党出身者の少ない内閣では工作力不十分です。大統領のお友達の軍籍関係者も何人かは居りますが、議会は軍隊ではありません。ジェネラルが命令を下したからといって、「イエス・サー」とは言ってくれないのです。
 ではどうしたら良いでしょう。政府には未だ選挙で勝った勢いがあります。大統領選挙で得た5700万票もあります。この「国民の声」を背景に、動向のはっきりしない議員たちを取り込み、「お国のためです」と支持を取り付けるのです。「大義名分をかざしての正面突破、これが今取りうる最善の方策でないか」と大方の識者の意見です。
 連邦議会は2月の議長選出から始まります。政府側(PSL)も下院議長選には自党候補を立てず、多数の支持取り纏めに力のある「ロドリゴ・マイア現議長支持」をいち早く発表して、今後の採決への布陣を敷いています。
 また、政党とは別に150名近く居るという「農牧グループ」の取り込みも狙ってカチア姐御を大臣に据え、宗教グループのエバンジェリスタ(キリスト教福音派)獲得も推進中です。

着実に前進へ(ORDEM E PROGRESSO)

「新内閣、議会の様子は大体分かった。それでこれからの俺たちの生活はどうなるんだ。皆のボルソ(財布)に金がナルーと言うなら楽しみだが、どうだい、ご隠居さん!」
 野次馬、八田さんの声が出ました。
「見方によってはボウソナロさん、いい形で政権を受け継いでいるよ。金利は低い水準で止まっているし、インフレもそう高くない。経済成長率(GDP伸び)は僅かだが、プラスの方に出ている。農産物の出来も良さそうだし、運営さえ間違わねば今年もその次もGDPは段々、上向くのでないか」
「ただ一つ気になる点もある。それは世界経済の動きだ。米中の貿易戦争の動きとそれに伴う世界的規模の不況到来だ。いくらブラジルが大国だと言っても世界経済の不振はモロに響く。石油や鉄鉱石の価格が下がり、大豆や肉類の輸出が伸びなければ、この国の金は回らない。なんとかこれは切り抜けねばならない。ボウソナロもトランプの真似をして『ブラジル・ファースト』など主義主張ばかり言わず、ブラジル産物を買ってくれるお客様、中国やアラブの国とも仲良くする政策をとることだ。真似をするったって、アメリカは世界一の強国だ。おだてられてやっと表舞台に出て来たような我がブラジルとでは格が違う、だ」
「もう一つ、景気というのは政府のやり方次第で短期的には相当に変えられる。収入も乏しいのに借金をして家を建て増ししたりすれば、見かけは金回りが良く見える。しかし、内実は借金でその返済、金利で首が回らなくなる。いつか破綻する。それは国だって同じことだ。
 赤字の国債を発行(国民に対する借金)して金を回し、一時の景気を良くしても、それは水の泡の様に何時か弾ける。数年は成長だ、発展だと喜んでいても、何時かストンと落ちる。水準以下に下がる。我々もバブル、クリゼ(危機)を経験して来たところだ。インフレ、バブルにして儲かるのは一部の金持ちだけ、最後に貧乏くじを引くのは対応策も分からぬ我々庶民だ」
「ボウソナロは立派な息子は居るし、美人の奥さんも居る。景気を急に立て直そうなどと無理をせず、トランプの真似とか見栄もはらず、少しずつで良いから着実に進歩発展できる様な政策をとって貰いたいね。ワシも年をとったせいか、『急伸長―ガタン』より、『着実な前進―PROGRESSO COM ORDEM』を選びたいね」経験豊かな御隠居の言葉でした。
「本当にね。ボウソナロさん就任の時の宣言、『この国のために、国民のために尽くす政治を』を忘れないでやって貰いたいね」。聞いていた取り巻き八田さん達の意見でした。=(ご意見、問合せの連絡先=> hhkomagata@gmail.com

オープンカーで就任パレードする様子(Rodrigues Pozzebom/Ag. Brasil)

オープンカーで就任パレードする様子(Rodrigues Pozzebom/Ag. Brasil)