会議所部会長シンポ=広がる視界、構造改革に期待=本格回復は2020年以降か=(上)

 ブラジル日本商工会議所(土屋信司会頭)の『2019年上期業種別部会長シンポ』が2月28日、サンパウロ市内ホテルで開催され、約160人が参加した。会員企業が10部会に分かれて業界動向を報告しあった。
 最初に安田篤副会頭は「新政権になって潮目が変わったか。前回は大統領選直前で経済の先行きに不透明感が強かったが、今は視界が広がっている。まずは国内地固めとして年金改革などの構造改革が打ち出された。これを機に攻めに回ってもいいかも、そんな想いを共有できれば」と挨拶した。
 金融部会の津田双羅部会長は、「新政権は、中長期的に成長率を挙げるような構造改革の政策が多い。方向性が明白になり、不透明感はなくなったが、これからは政策実行力が問われる」と次の段階に入ったとの認識を示した。
 2019年の主要マクロ経済指数として、2019年は国内総生産の成長率は年金改革実施を前提に2・8%と上昇、政策金利は6・5%、インフレ率は3・8%、為替レートは1ドル/3・70レアルとほぼ現状並みを予測した。
 またボペスバ株価市場は現在9万7659Pだが、「すでに歴史的な高値水準だが、今年中にはさらに12万Pに達する可能性がある」との見通しをのべた。
 2020年予測に関しては、国内総生産は2・5~3%、インフレ率4%、年末為替レートは3・60~3・80レアル、年末政策金利は7・50~8・00%と上昇すると見ている。
 現在の低インフレ、低金利環境が長期化すると見通し、本格的な景気回復には個人消費の回復が不可欠とする。そのためには各種構造改革の進展によるビジネス親和的な環境への変化が前提とされ、ブラジル社会の高齢化を見越したような中長期的な戦略も必要になってくると締めくくった。
 貿易部会の猪股淳部会長は、米中貿易戦争の結果、昨年は金額増減率で中国への輸出が35%増、米国へは7%増加したとし、ブラジルは漁夫の利を得た状態であることを示唆した。
 19年に関して「新政権の財政改革(特に年金改革)、経済活動の自由化拡大や国営企業の民営化推進に期待すると共に、日本企業としても対応を考え成長の機会をとらえていく」と展望した。
 機械金属部会の植田真五部会長は、電力消費は16年に底を打って微増し、18年には13~14年水準に回復。「電力オークションの結果、風力・太陽光が大半を占め、売電価格を下げている」と分析。自動車産業は「長いトンネルを抜けだし、回復傾向が鮮明」と強調した。その上で、「新政権の実力は未知数。今年は政府の力量を含め、その成り行きを見守る年。インフラ・建設市場の本格回復は2020年以降か」と見通した。
 自動車部会の下村セルソ部会長は、販売台数推移では16年を底に、「2年連続で前年越え」と喜びの報告。ブランド別シェアでは、日系ブランドは販売台数を伸ばしながらも、生産制約などによりシェアは減らした。「フォードやGMが生産施設の整理を発表しているが日系メーカーはどうか?」との質問に、「この国はまだまだ伸びる。日系メーカーはブラジルから出るつもりはない。部品供給企業と共にがんばる」と断言した。
 メルコスルはFTA/EPAに関してEUと交渉中、カナダとも交渉中、韓国が研究終了の段階にあるのに対し、日本は昨年10月に経団連から早期交渉開始を官房長官に建議しただけの段階であり、「日本とのEPA早期交渉を推進しつつ、EUや韓国などに劣後しない内容を要望する」と強調した。
(つづく)

□関連コラム□大耳小耳

 ブラジル日本商工会議所シンポの貿易部会の質疑応答では、直接投資国リストに中国の名前が出ていないことが注目された。国別の対内直接投資の1位は断トツでオランダ、2位米国、3位ドイツ、4位スペインとなっている。5位はバハマ、6位ルクセンブルク、7位ケイマン諸島、8位バージン諸島など租税回避地(タックス・ヘイヴン)の名前がズラリと並ぶ。日本は12位だが、なぜか中国が現れない。大規模な投資が行われているはずなのに、「投資経由国を迂回した形の投資で、どれが中国からのものかよく分からない」のが現状だとか。なぜそこまで徹底的に経由する必要があるのか、実に不思議だ。
    ◎
 会議所シンポ当日は会場で、ヤコン・インターナショナル社による「2018年度版世界10位以内のブラジル」リストが配られた。そこから気になった1位を見ていくと、オレンジジュース生産量・輸出、家畜頭数(牛)、砂糖、サトウキビ生産量、砂糖輸出量、葉タバコ輸出量など、世界一には農業系がやはり多い。また年間降水量、淡水資源、ニオブ鉱埋蔵量・生産量などの資源関係も立派。ただし、歯科医数が多いのは虫歯が多いことの裏返しか。落雷頻度は自然現象だから仕方ないとしても、防弾乗用車製造数、税務手続き・企業年間所要時間の“人災 ”関係が世界一位はいただけない数字だ。このリストにはないが、もしかしたら最近では鉱山ダム決壊の被害の大きさでも世界一?