立つ鳥あとを濁さず=移民の「終活」座談会=(5)

子供に願うことはポ語で遺す

長谷川さん

長谷川さん

【長谷川】家族が居ても自分の葬式については話しておいたほうが良いですよ。私の母が亡くなった時には父がお葬式をあげたので普通にできました。
 ですが、父が亡くなったときには、急だったこともあって兄弟が葬式のやり方で揉めてしまって、それが原因で仲が悪くなってしまったんです。
【深沢】前もって葬式について意思を伝えておけば、余計なトラブルも起きなかったということですね。
【上野】そうだね、こういうことは、自分から言ってあげないと駄目だね。「親父の葬式のことなんだけど」なんて子供からは言い難い話だからね。
【一同】(笑)
【長谷川】あと気をつけないといけないのは、認知症ですよね。認知症になってしまうと自分の意志をちゃんと伝えることが難しくなってしまうんです。
【中川】わかってはいるんですけどね…。みんなが団欒しているときに言い出しづらいんですよ。急に言い出すんじゃなくて、日頃から話し合える関係を築いておかないといけないんですよね。
【深沢】書き残すにしても、子ども達がわかる様にポルトガル語のものを用意しないといけないから気をつけないといけませんよね。日本語で終活ノートをかいて、翻訳をしてもらうとか。
【中川】そうね。火葬の件にしろ、ポルトガル語じゃないと理解してもらえませんからね。
【上野】日本人はお葬式の後で、香典返しでお返ししますよね。そういうこともちゃんと言っておかないといけない。大きな葬式したのに香典返しも無いってなると関係に悪い。
【深沢】二世の家族とかは香典返し自体知らなかったりするでしょう。ブラジルの文化ではないですからね。だからといって、彼らを咎めるのも可哀想ですよね。
【中川】家に香典返しが来た時に子供にそれが何か聞かれて、お葬式の時にはこうして御礼をするのよって話したら「NOSSA!」って驚いちゃって(笑)
【深沢】そうだと思いますよ。
【中川】だから、自分の葬式の時には、香典返しは援協に寄付しますって新聞でお知らせするから、あなた達は悩まなくて良いわよって言ってあるんです。そしたら、「NOSSA! 新聞に出さないといけないの!?」ってこれも驚いてましたけどね(笑)
【上野】援協に寄付したら新聞に出ますよね?
【深沢】援協の広告のところに出ますね。
【上野】今も死亡通知や会葬御礼は新聞に出ているんですか? 昔はいっぱいありましたけど。
【深沢】はい、やってますよ。奨励するっていう性質のものではないんですが(笑)。ただ息子さんたちからすると「こんな値段するの?」と驚かれたりしますね。
 でも親が属していたコミュニティに知らせることの大切さを、子どもたちにも尊重してほしいと思いますね。
【上野】日本人の集団で生活していた子ども達は心得ていますけどね。
【中川】あと私が気になっているのが遺影。以前日本の週刊誌で80代で亡くなった女優さんが19歳ころの写真を飾られたことが取り上げられてたんですね。昔の写真使うのも悪くはないんですけど、今の自分と全然違うって言うのも違和感があって。そろそろちゃんとしたの撮っておかないとって思うんですよ。
【上野】それはそうだね。それもやっぱり元気なうちに準備しておかないといけない。
【深沢】そうですね、自分で選んでおいたものを使ってもらうのが自分もまわりも一番いいですからね。亡くなってから慌てて探してっていうのも。(つづき)

【編集部調べ】

香典、香典返しとは?

香典袋と花

香典袋と花

 香典の起源には諸説ありますが、一説では葬式に必要なお香を皆で持ち寄ったことが始まりであるといいます。昔のお香は現代品よりも粗悪で、燃焼時間が短かかったため、葬式中不足なく会場を焚き清める為には沢山のお香が必要で、皆でお香を持ち寄ったのだとか。
 香典を現金で渡すようになったのは、戦後に確立された様式で、葬儀を行う遺族の金銭的な負担を少なくする為に変化していったようです。
 香典返しは、忌明け法要(四十九日)が無事に終わったことを弔問客に報告し、そのお礼を贈るという習慣で、最近では「出来るだけ早く、お返しを済ませたい」という考え方から、葬儀当日にお返しをしたり、初七日で香典返しを行う場合もみられます。
 香典が遺族の金銭的な負担を少なくするために行われるようになったので、香典返しのために贈られる品物は、香典の3~5割の金額であることが多いです。また、故人の意思や、弔問客側からの善意に応じて福祉団体へ寄付する人も多いです。

古藤弁護士のアドバイス(3)
身寄りが無い人の財産はどこへ

古藤弁護士

古藤弁護士

 身寄りのない人が亡くなった場合、行政がその財産を処分します。自分で財産の処分先を指定したい場合は、生前に公証役場で使用収益権保持寄付証明書(doacao com reserva de usufruto)か、公証遺言を作成しましょう。
 使用収益権保持寄付証明書とは、自分が生きている間は、寄付予定の資産から得られる利益は自分のものにするが、死後にはその資産を任意の人物や団体に寄付することを約束するという旨を記した公的文書のことを指します。自身の資産で生前の生活設計が出来るので、普通の寄付による生前の財産処分よりも便利ですね。
 公証遺言にはそうした便利な機能はありませんが、財産を受け取る人に条件を付けることが出来ます。例えば「(名前)に土地を譲るが、土地の利用方法は福祉施設を建てることに限る」などです。財産受取人がこの条件を守らなかった場合、裁判でその所有権を剥奪されます。使用収益権保持寄付証明書ではこうした制限はかけられません。
 公証役場での手続きでは、日本語しか出来ない人は公証翻訳人の帯同が求められます。またその性質上、認知症や精神疾患を患っていないことを証明する医師の診断書が必要になる場合がありますので、ご注意ください。
     ◎
 古藤弁護士は、無料の法律相談をサンパウロ日伯援護協会リベルダーデ診療所で、毎週金曜日の午後2時から4時まで先着順で行っている。