7月から増えるシャーガス病=アサイ生ジュースに要注意!=岡本洋幸(在ブラジル日本国大使館参事官兼医務官 ICD) 三浦左千夫(長崎大学客員教授) 平山謙二(長崎大学熱帯研究所所長)
ブラジル国内で気になる病気の1つにシャーガス病がある。発生は7~12月が多い。ラテンアメリカでは年間約1万2千人が死亡し、1千万人が罹患している。
シャーガス病は原虫クルーズ・トリパノソーマが引き起こす感染症。クルーズ・トリパノソーマは、サシガメ(カメムシの一種。ブラジル国内には68種類生息。雄も雌も吸血する)の腸内で増殖し、糞に混ざって排出され、ひっかき傷や眼の粘膜などから皮内へ侵入する。感染原因の約70%以上がこの経路である。
このような自然感染以外でも輸血(血小板輸血が特に危険)や汚染した食品の摂取、慢性感染した母からの経胎盤感染などでも起こる。
▼ブラジルでの流行
エバンドロ・シャーガス研究所の調査によると、アマゾン地域では、2018年の新規感染者の88%が食品による経口感染をしている。うち2名が死亡(登録されていないが他にも12人死亡)。調査では、採取したサシガメの60%が、動物(ネズミは20%、猿は15%感染している)から吸血または、親から感染することで原虫に感染していることがわかった。
1990年以前は、家屋でサシガメに刺されて流行していたが、90年代にシャーガス撲滅プログラム(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、パラグアイ共同)が始まり、2006年にはWHOがブラジル国内でシャーガス病に自然感染することは無いと撲滅宣言が出されるまでに至った。
現在は、アサイなどについている糞便由来の原虫による経口感染が多くみられ、特に発生の多いベレンでは、約5000カ所のアサイ販売所に対してブラッキアメッド法(※)のプロトコールを守るよう指導し、200カ所が遵守している。
(※ベルトコンベアで水洗いし、80度のお湯に10秒漬け、その後冷水につける方法、これ以上だと果肉が崩れてしまう。電気代が掛かることから従わないところも多い。基本的には生ジュースなどに対するもので、アイスクリームや加熱処理ジュースなどは問題ないようである)
シャーガス病に対する研究は、1909年のカルロス・シャーガスによる発見以来研究がなされ、媒介昆虫の駆除法や母子感染新生児の治療法、慢性合併症に対する対策なども実施されている。
読者の皆様は、特に汚染した食べ物、特に生ジュースを摂取しないように注意して下さい。
ブラジルの日系人では感染率は約1・9%)となっています。
検査は、各州政府指定保健所または、研究所で無料で行えますので、気になる方は、どうか検査してみて下さい。。
日本では、東京ブラジル総領事館内で毎週木曜日希望があればラテンアメリカ人~日本人を対象に実施しています。
▼症状と検査法
臨床的には感染早期の急性期と慢性期に分かれ、治療薬が著効するのは、急性期である。
急性期の症状:リンパ節、肝臓、脾臓の腫脹、心筋炎、心臓障害などが起こることがある。
数週間から数カ月、熱、疲労など風邪に似た症状がでることがある。
死亡率は約3%、流行地では原虫の侵入を示す皮膚症状として以下の2つが有名である。
【シャーゴマ】原虫が侵入した部分が赤く腫脹し、硬結
【ロマーニャ兆候】眼瞼腫脹
□慢性期の症状□:急性感染の後10―20年経過して、感染者の20―30%に以下のような典型的な合併症が現れる。
◎心臓の合併症:心肥大、不整脈、心停止
◎腸管の合併症:食道、結腸の肥大化
□診断法□:急性期 血液内の寄生虫を顕微鏡で観察
慢性期 特異的な抗体を検出するため、蛍光免疫染色法に追加して間接血球法かELISA法というものが行われる。
検査は、各州政府指定保健所または、研究所で無料で行える。
治療法は、ブラジルでは、駆虫薬ベンズニダゾールを2カ月、1日3回使用する。しかし、副作用に皮疹、消化器症状、しびれ、下痢、脱毛があり、副作用が強い場合、ニフルチモックスを使用する。治療費は無料。
【参考文献】
Current Situation of Chagas Disease in Non-Endemic Countries TAKESHI NARA, SACHIO MIURA
Juntendo Medical Journal 2015.