臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(109)

 その当時、同意見の者がほかにもいたが、ミゲル・デ・コートやフェリックス・ペシャコに扇動され、すでに排日運動が始まっていた。1926年、コートは全国に警告を発した。
「わが祖国は無防衛のまま、アジア人の手にかかろうとしている。神のお助けがないかぎり、闇夜がくるだろう」また、オリヴェイラ・ヴィアナは、何度も「日本人は硫黄と同じだ。溶けて交じり合うことはない」といい切っている。
 1930年の革命でゼトゥリオ・ヴァルガス が手にした政権の懸念材料にの一つにブラジル人と外国人の労働力の競争問題の解決があった。政権確立一ヵ月半後、新政府は1930年12月に第18・482の法令を発布、農業地帯のみの移民を奨励し、都市への移民を禁止した。その理由として、
「失業率上昇の原因のひとつに何の技能ももたない外国人の節度ない入国がある。多くの場合、彼らはわが国の経済を混乱させ、また、不安定な社会をつくる要因ともなる」
 この論拠は経済的、社会的問題のみにあてはまり、人種問題についてはふれていない。しかし、1934年の国家憲法制定議会の何人かのメンバーが日本移民をとりあげて以来、雲行きが変わった。たとえば、パシェコ・デ・シルヴァは議会で、
「我らが観察するところ、日本人は精神障害の持ち主で、錯乱状態に達したとき、犯罪を犯しかねない。宗教的観念により、命の価値を重んじない。それは自殺しやすいことでも分る。野蛮で残忍な犯罪に走りやすく、ときにはその被害者が家族の一員だったりすることもある」
 シャヴィエル・デ・オリヴェーラ立憲議会議員は黒人と黄色人の移民の禁止と帰化を申請する移民の肉体的健康状態の検査を強制化する修正案1・164を提案したとき、その理由として国が直面している大きな問題は、
「堕落しかかった価値のない人種、たとえば、東アジア、おそらく近東全土の人種の移民が発端となっている」と述べた。同議員にとって、異人種の混血は弱く能力にかけた愚かな人種を生み出し、この大国を維持するための障害となる。特に東洋人は思考的にもっとも好感がもてない人種だとも言っている。
 1937年、ゼトゥリオ・ヴァルガスが設立した独裁主義の新国家体制憲法草案を法学者フランシスコ・カンポスが手がけていたとき、例のシャヴィエル・デ・オリヴェーラは独裁者が移民を完全に廃止させるように、アジア系移民の入国を再び批判した。今回は人種的ではなく政治的な面に攻撃のほこ先を変えた。
 彼の言い分はこうだった。日本は満州、モンゴル、太平洋の植民地、ハワイ、メキシコの侵略を企てている。次の狙いはブラジルのアマゾン、サンパウロ、リオ、パラナの各州だ。日本政府の意向はペルー、ボリビアをルートにブラジルに侵入し、その地を獲得したのち、今世紀の終わりまでに1千万の日本人を住み込ませると言うものだった。
 それから何年か後、先の法学者フランシスコ・カンポスは法務大臣として、1941年、400人の日本移民のブラジルへの入国は適切ではないという意見を出した。
「5年、10年、20年、50年かかっても日本人がブラジルに順応できず、結局、永久に順応できないと考えるのが妥当だ。彼らは我々とは全く違った人種で全く異なった宗教を信じ、西洋人には理解できない言語を使い、文明も低く、西洋文明に溶け込むことができない。軍国主義、実利主義を目的とした知識が最も重要だと考えている。