ホーム | 文芸 | 連載小説 | 臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳 | 臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(138)

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(138)

 1946年4月10日、ジェラルド局長の取り調べに対する高橋先生の供述によると、アラサツーバへの臣道聯盟の機関誌は彼のところにまとめて送られて、それを会員に配布したと語っている。また、日本からの情報については集会場所にしていた有田マリオのリスボア・ホテルでラジオ放送を通して手に入れたとも語っている。
 サンパウロの奥地で苛酷な農作業をつづけるほとんどの日本人は、日本の勝利を信じきり、故郷の空軍がブラジルを支援するため、空に現れるのを今か今かと待っていた。
 日本人は白と赤の布地を買って、母国の軍隊が到着したおりに出迎えるための「日の丸の旗」を作っていた。臣道聯盟の機関紙「旭新報」の9号のタイトルには「日本の象徴、日の出のついた軍用機が空からやってくる」とまったくデマの情報を伝えていた。
 「去る12日サントス方面から来た飛行機がサンパウロ近郊のタボア植民地の上を飛んでいた。ある同胞が偶然、爆音をたてながら低空飛行をしている飛行機を発見。真っ赤に塗られた日の丸のついた銀色の翼の飛行機だった。その同胞は近所の人々に知らせるため馬で走り回った。家に戻ると、他の日本人も同じ情報をもって駆けつけてきていた。彼らは不安と期待に胸をしめつけられながら、成り行きをうかがった。3時間後、午後2時ごろ、モーターの音が近づき、あたりを揺るがした。前隣、横隣の人たちは家から飛び出した。飛行機はものすごい爆音を立てながら、ごく低空を飛んできた。そのときみんなの目が飛行機に集中した。みんなの神経をゆさぶらせて、すごいスピードで過ぎ去る。みんなは飛行機が彼方に遠ざかっていくのを見つづける。ああ! そこには日の丸がえがかれていた! 間違いなく、日本の飛行機だ!」

 もうひとつの「臣道ニュース」が伝えた1945年10月の記事によると、日本軍は北米の東海岸のサンフランシスコに上陸し、日本の外務大臣は「日比谷公会堂」とよばれる日本総領事館に監禁されているマッカーサー元帥と長い間会談したとなっている。いったいだれがこの情報を疑うというのか。
 まして、この同じ記事には「読者はこのニュースを疑うことなく、真実をただ信じるのみだ。疑問をいだくことなく、自分自身を信じるのみだ」と書かれている。そして、「日本国の民であるなら、勝利を疑うはずはなく、もし、そのような確信がもてないとしたら、それは国民意識がない証拠だ」と結んでいる。
 このほか、もっといろいろなデマが広く迅速にいきわたった。1945年9月の警察への証言に高橋先生はこう述べた。
「何日だったか、また、何という名前だったか分からないが、同胞の行商人がアララクァーラにやってきて、その月の20日ごろ、ブラジルに日本政府の代表者をのせた船が到着すると伝えた」
 この日本から船がくるという話しは、日付は異なるが、あちこちでもち上がった。アラサツーバの郊外に住んでいた橋浦昌雄は日記にこう記している。
 「ブラジルに住む同胞を安心させるために日本から政府の使節団がこの町にもくるという情報がどんどん増えている。その情報によると、外地に住む同胞を慰問のため、有田ハチロウ氏が率いる200人の使節団がいく隻かの軍艦に乗り、空からの護衛を受けながら9月1日に日本を発った。到着は9月15日の予定。海外に派遣された使節団の人数は全部で3000人に及ぶ。A町の頑固な者たちは使節団の目的はブラジル在住の同胞たちを励ますためと考えているが、まったく馬鹿げた話しだ。励ましの訪問を受けるだけの力があると考えている傲慢さに腹が立つばかりだ」

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 《ブラジル》コパ・アメリカでセレソンが3連勝=後半終盤にコロンビアを逆転2021年6月25日 《ブラジル》コパ・アメリカでセレソンが3連勝=後半終盤にコロンビアを逆転  23日、サッカーのコパ・アメリカでブラジル代表(セレソン)対コロンビアの一戦が行われ、後半終盤に試合をひっくり返し、2―1で勝利したセレソンが3連勝を飾った。24日付現地紙が報じている。  リオ市のニウトン・サントス・スタジアムで行われたこの1戦、先制したのはコロン […]
  • 東西南北2021年6月22日 東西南北  20日のサッカーの全国選手権。サンパウロはサントスにボール占有率で勝りながら、0―2で敗戦。5試合終わって3敗2分の18位と苦しんでいる。今季はここまで意外な展開で、上位3チームをアトレチコ・パラナエンセ、フォルタレーザ、ブラガンチーノといった伏兵が占めている。強豪たちもそろ […]
  • 【日本移民の日2021年】歓喜を味わい、過去を振り返る時=ブラジル都道府県人会連合会 会長 市川利雄2021年6月22日 【日本移民の日2021年】歓喜を味わい、過去を振り返る時=ブラジル都道府県人会連合会 会長 市川利雄  ブラジル日本移民113周年記念は歓喜を味わい、過去を振り返る時ではないでしょうか! 「歓喜を味わうとは」――日本移民の経済、農業、園芸、果実、セラード開発、料理、各分野で活躍する有能な人材、さらに、その歴史の継承などはブラジル社会に認められ、高く評価されています。 「振り […]
  • 【日本移民の日2021年】「日本移民の日」に寄せて=在サンパウロ日本国総領事 桑名良輔2021年6月19日 【日本移民の日2021年】「日本移民の日」に寄せて=在サンパウロ日本国総領事 桑名良輔  6月18日「日本移民の日」を迎えるにあたり、皆様にご挨拶を申し上げます。1908年に笠戸丸がサントス港に到着してから今年で113年となります。  昨年8月に着任した私にとっては今回が初めての移民の日となります。先日、サンパウロにあるブラジル日本移民史料館を訪問し、レ […]
  • 【日本移民の日2021年】日本移民113周年記念日に寄せて=サンパウロ日伯援護協会 会長 税田 パウロ 清七2021年6月19日 【日本移民の日2021年】日本移民113周年記念日に寄せて=サンパウロ日伯援護協会 会長 税田 パウロ 清七  1908年(明治41年)6月18日、笠戸丸に乗った最初の日本移民781人がサントス港に上陸して113年の歳月が流れました。そして今や、ブラジル日系社会は200万人を擁する大きなコミュニティーに発展いたしました。先達の皆様方の幾多のご労苦とご功績に対し、深甚なる感謝の念と敬意を […]