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新政府と国会の仕事ぶりを拝見=峠は越えたか、年金改革法案=聖市在住 駒形 秀雄

息子のエドゥアルド下議(中央)とボウソナロ大統領(右、Marcos Correa/PR)

 青空がのぞく暖かい日があったかと思うと、急に雨模様の寒い日が訪れたり、中々はっきりしない天気が続きます。
 今年1月からはボウソナロ政権が発足し、国会の方でも旧いタイプの政治家は去り、多くの新議員が登場してきました。
 「さあ、これで我がブラジルも明るい未来へ向けてスタートを」と期待をしたのですが、今、寒い風の吹く8月になっても、さっぱり景気は良くならないし、政治の方でもこれというニュースが流れて来ません。「何だ替り映えがしないな、これまでと同じことか」と国民は少しガッカリしています。
 しかしまあこの世の中、ただ待っていても 果報は来てくれません。政治の中心ブラジリアではガタガタやってるようなので、今日はちょっとその辺を拝見してみましょう。

▼下院を通過した年金改革法案

 ブラジルの年金を中心とした社会保障制度は大きな財政赤字の源となっており、このままでは年金(INSS)だけでなく、国の財政も破綻だと言われておりました。
 歴代政権がこれの改革を試みて来ましたが、「総論賛成、各論反対」のため、国会で多数の賛成票を得られる成算が立たず、結局お流れになっていました。
 それがボウソナロ大統領、パウロ・ゲーデス経済相などの尽力を得て8月7日、法案は下院を通過したのです。賛成票は定数513票の内、379(1回目)/370票(2回目)で、予想を大幅に上回る政府側の勝利でした。
 この改革法が実施されても、現在年金を受け取っている我々の取り分は変わりません。ですが、今後10年間で9千億レアル強の赤字削減になると発表されており、関係者一同一安心と言うところでしょう。
 今までの政権時代は国会議員の賛同を得るため、各議員に裏の金(メンサロンと言われた)を払ったり、あるいは、大臣、各省や有力公社の役職(利権に結びつく)を提供するなどして、票まとめの問題を解決してきた訳です。
 ですが、今回はこの様な汚職方式を取らずに、これだけの改革をやり遂げようとしている。これはブラジル政界では画期的なことで、大いに賞賛に値すると言える訳です。(パチパチー! 拍手です)
 ただし、早まらないで。新年金法は未だ成立したのではありません。これから上院の審議、採決に回されて、ここで定数81の6割(49票)以上の賛成が必要とされます。上院としても、上院の名誉にかけて厳正に審議をするでしょう。ですが「やっとここまで来た法案を上院が異議を唱えてぶち壊すことはあるまい」というのが、大方の見方です。法案の上院通過は9月中になると見られています。

▼適格なら身内でも大使に出来る(?)

 先日大統領が「息子のエドアルドを駐米大使にしたい」と発表し、周囲を驚かせました。「エドアルドは英語もスペイン語も堪能だし、議会の外交部会での経験もある」と言うのです。駐米大使と言えば要職で、従来は外務省の幹部とか政界の大物が就任するポストだったのに、「やっと35歳になったばかりの若造に、しかも自分の息子をか」「これは縁故採用じゃないか。人を入れ替え新しい政治をやると言っていたのに、これじゃ旧式政治家のやり方とちっとも変わらない」と、俄かに議論が巻き起こりました。
 しかしボウソナロ大統領はそれには関わらず、米国に新大使任命に関する事前合意をもとめました。これに対し、米国からは8月9日、エドアルド氏任命にAGREMENT(合意)が来たのです。
 この種の人事については常識的には非公開で打診し、承諾を得てから公開するのが普通なのですが、今回は始めから公開でなされました。その上、米国のトランプ大統領からは「ボウソナロの息子なら知っている。しっかりした良い男だ。駐米大使に適任だ」というおまけのコメントまで発表されているのです。
 上院議員の内では「何だかボウソナロにいいようにやられているようで面白くない」という雰囲気もあるのですが、米大統領のお墨付きまで貰った案件をここで否決、ご破算にするのも穏やかではありません。
 大使の任命には、上院でSABATINA(資格審査)の様な質疑がなされ、その後採決にかけられます。ボウソナロ側も審査の結果不合格では面子丸つぶれですから、事前に下工作をして、承認多数のめどが付いてから、議案を上院に回すでしょう。
 と言う事で、この件もボウソナロの思惑通り、若い新駐米大使誕生の可能性が大いにありとなります。

▼アマゾンの密林は切るべきか、残すべきか

 ボルソナロ氏は選挙前から、「ブラジルはまだ発展の余地が沢山ある。アマゾンの密林を開発し、農牧地にすれば良い。アマゾンにある自然保護区内にも地下資源があるだろう。必要なものは開発すれば良いのだ」と言っていました。
 開拓初期の移民は原生林の樹を切り倒し自分の農地とし、生活の糧としました。これを再現すれば良い、と言うのです。
 これに対し、自然、環境保全グループは反対です。「アマゾンの樹はいっぺん切ったら中々再生出来ない。植生も変わる。自然環境を破壊すれば世界的に異常気候をもたらし、被害が出る。人間は自分で自分の首を絞めることになるのだ」との論拠です。
 ドイツなどヨーロッパ諸国はこの自然保護グループで、偉いことに、アマゾンの自然保護の為に巨額の資金まで提供しているのです。それにも関わらず、開発グループの勢いは止まりません。樹を切って売れば金になる。只みたいな価格で広大な土地が手に入る、関連業者もバックについている。

G20大阪サミットに出席したボウソナロ大統領(Clauber Cleber Caetano/PR)

 それで「今年6月までの森林伐採面積は、昨年比88%も増えている」と国立宇宙研究所(INPE)によって発表されました。丁度この6月末には大阪で世界のリーダーが集ってG20首脳会議が開催されました。
 出席するドイツのメルケル首相は、「ボウソナロさんに会って、このアマゾン自然保護について話し合いたいわ」と言っていました。
 一方、ボウソナロ氏は「アマゾンは我がブラジルの固有の領土だ。何のかんのと外国からの指図は受けない」と強気の発言でした。
 丁度このタイミングで上記アマゾン森林伐採の数字が発表されたのです。ブラジル対ヨーロッパ・グループの対面はどうなるか? それは自然保護団体、マスコミの注目の的となりました。
 しかし、G20で相反する両者の厳しい話はなく、記念写真に納まるとき、フランスのマクロンさん、ドイツのメルケルさんの間に立ったボルソナロさん、皆が涼しい顔で写っていました。さすがの外交センスでした。
 だが、この話、ブラジルで後があります。ボウソナロは、丁度タイミング悪く(?)森林伐採の進行を発表したINPEの態度が気にいりません。
 INPEは国の機関で、組織的には大統領の下にあるのです。「そういう重要な発表は上が承認してから発表するべきものだ。怪しからん」です。
 それに対し、学者肌のINPE所長は「アマゾンの樹木伐採監視などは人工衛星を使って科学的に行われている。この資料は公開でだれでもアクセスすることが出来るものだ」などと真面目な釈明をしたのです。
 でも、ボウソナロさん、階級尊重の軍人意識が強いのか、上官の気持ちを忖度できないIMPE所長を8月初めに解任してしまいました。
 「Voce Rua!」(外に出ろ!)。これも、気に入らない人間はすぐに入れ替えるトランプさんを習ったのかも知れません。
 このお話、どちらが正しいのかわかりません。でも結果は、現実は、以上の通りということでした。

▼難問・税制改革をやる!

付表

 ブラジルの税制は、時の政権の必要に応じて次から次へと創設、積み重ねられていったもので、公祖公課、大小合わせて50種類以上あるのだそうです。
 この税金が又、国(連邦)の税の他、州の税、市町村の税、と分かれており、それぞれ計算法、納入先も異なっており解りづらい。解からず間違うと大型の罰金がくる。
 企業、ことに日本など外国の企業には悩みの種でした。どこの会社に行っても経理関係の人が沢山おり「大勢の経理マンに仕事を与えるために、このように手間のかかる制度にしてあるんだ」と言う冗談が本当に聞こえるような状態なのです。
 ボウソナロ、ゲーデス経済相グループは年金法改革の成功に気を良くして、その勢い、熱の醒めぬうちに税制改革をやろうと取り上げたのです。税制改革案は今週にでも発表される筈ですが、幾つかある改革案の骨子は大ざっぱに言えば、次の3方策にまとめられると思われます。
(1)《制度の簡素化》たくさんある税金を出来るだけ集約して一つか二つの「付加価値税」にまとめる。
(2)《税計算の機械化、デジタル化を図る》出来るだけ人手をかけないようし、自動的に納税できるようにする。
(3)《公正、合理的な税制にする》一方に重く、他方に軽くのような不公平感を無くすような制度を作る。
 これらの原則は実は誰でもが分かっていることなのですが、それが中々実現に漕ぎ付けられないのです。
 それと言うのは、各分野で利害が相反したり、中には「自分が良くなるのなら、他人が悪くなるのは知ったことじゃない」と言う様な我利ガリ亡者も沢山いるからなのです。
 我らが愛する日本でさえ、昔から政治改革、税制改革などと唱えられながら、未だに全く前に進んでいません。問題解決の複雑さ、難しさが分かりますね。
 改革案の具体的内容については、分量も多く、紙面の都合もありますから、詳しくは今述べられません。それで、以下に一部だけ触れてみましょう。
#IPI、IOF、IR、PIS/COFINSの他、州税のICMS、市町村税のISS、IPTUなどを「IVA」(付加価値税)として一本化する。
#法人税(企業の所得税)を低くするが、その代償に株式配当金への課税や、いわゆる小切手税(CPMF)の復活を行う。
 このうち問題とされそうなのは、CPMF(通称小切手税)の復活でしょう。このCPMFは銀行へのお金の払い込み、引出しの度に一定率(前回実施時は0・38%だった)の税金を自動的に国庫に納入するというものです。
 この税はお金の動くたびに銀行のコンピューター処理で納付金が計算される。政府は何もしないでカフェーでも飲んでいても、自動的に国庫に税金が振り込まれます。金額が大きいし、他の税のように脱税の監視、管理(fiscalizacao)も必要ない。政府にとっては理想的な税と言え、一番復活創設したい税と言えるでしょう。
 しかし、お金を動かす度に税がかかるというのは、お金の自由な流通を阻害し、経済の近代化には逆行する税ですから、エコノミスト、実業界からはもう反対の声が上がって居ます。
 何はともあれ、この様に年金改革、税制改革と懸案が次々に解決されれば、我がブラジルは近代化に向けて前途洋々です。
 私達も、「ブラジルは汚職と泥棒の国だ。もう嫌になった」などと決め付けず、時には新聞のこの様な記事も読んで、これからも希望を持って生活していきたいものですね。――(この記事についてのご意見、感想などはこちらへどうぞ=hhkomagata@gmail.com=)

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