移民史料館=田中慎二回顧展が開幕=9階全体、100点以上一堂に=自由な作風から故人の人柄偲ぶ

中央が田中信香未亡人、その右が山下リジア運営委員長、高田進さん、一番左が中島宏さん

 画家でイラストレーター、コロニア史研究家の故田中慎二氏の一周忌を記念した回顧展「田中慎二 a liberdade de viver a arte em vários mundos」が、ブラジル日本移民史料館(山下リジア玲子運営委員長)により7日午後3時から聖市リベルダーデ区の文協ビル9階で開幕した。同氏と縁のある約80人が集まり、遺作をしみじみと鑑賞した。階全体を使って100点以上のスケッチ画、油絵、水彩画、イラストなどが展示された。自由なスタイルが特徴なだけに様々な作風が混在し、複数の作家が合同展を開いているかのような不思議な空間となった。

たくさんの人が詰めかけた回顧展の様子

 開幕式でブラジル日本文化福祉協会の石川レナト会長は「田中慎二さんは素晴らしい仕事を残してくれた。さっそく4点を買わせてもらった。ぜひ皆さんも」と呼びかけた。

慎二さんが表紙を手がけた「農業と協同」誌

 山下運営委員長も回顧展のキュレーターを務めた沖中ロベルトさん、支援した中島宏さんなどの協力者に感謝の言葉を述べた。友人代表として中島さんは「慎二さんは生前『私はイラストレーターで画家ではない』と言っていたが、ずらりと並んだ絵を見れば一目瞭然、芸術性の高い作品を残した素晴らしい画家だった。穏健で控えめな人柄が作品によく表現されている」と称賛した。
 親戚代表の高田進さんは回顧展実現に尽力した人たちに感謝し、未亡人の信香さんも「よく『ご主人はどのような方だったのですか?』と聞かれ、どう答えていいか分かりませんでした。ですが今日は言えます。この作品が主人そのものです。ここから感じて頂いたものが主人です」と目に涙を浮かべた。
 サンパウロ人文科学研究所理事の大原毅さんは本山省三所長の挨拶を代読し、1970年から同所の活動に参加して数々の本出版を手伝ったり、執筆してきた故人の貢献を振り返り、「中でも2017年に本人自ら編集した画文集『アンデスの風』は、芸術家人生の栄冠といって良い作品だ」と位置付けた。
 同画文集は100冊限定なので、すぐに売り切れた。そのため史料館では同氏の作品を100点以上収録したカタログ(88ページ、70レアル)を今回新たに制作し販売中だ。

田中慎二さんが好んだパラナ松の作品

 信香さんの妹・高田和枝さんは「こんな立派な展示会をしてもらって、義兄が生きていたらどんなに喜んだことか」と微笑んだ。60年代からの友人という永田和夫さんは「パウリスタ新聞の横にあった『あなぐら』という酒場でシンちゃんとよく飲んだ。若いころから謙虚な人柄だった」と偲んだ。
 また会場では田中さんの著作『ブラジル日系美術史』のポ語版『HISTÓRIA DA ARTE NIPO-BRASILEIRA』(翻訳者=田中詩穂さん、富松マリア房子さん、松阪健児さん)の出版記念会も行われた。日系書店や全伯の書店において78レで販売中。
 回顧展は12月8日まで開催。問い合わせは史料館(電話=11・3209・5465)まで。

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 人文研には半田知雄さんという「画家と同時にコロニア史研究家」として有名な人物がいた。その伝統を継ぐのが田中慎二さんといえそう。最近では『ブラジル日系美術史』(2016、同研究所)や『移民画家 半田知雄 その生涯』(2013、同研究所)も出版し、今も人文研で購入可能だ。田中さんは55年に多摩美術大を中退し、ボリビアへ移住。60年からはパウリスタ新聞社に勤めた。回顧展で関昇さん(81、東山研修生2期)に話を聞くと、「63年に同じ学校でポルトガル語を勉強して以来の付き合い。パウリスタ新聞に掲載されていた風刺画が特に好きだった」と懐かしんでいた。