県連故郷巡りアマゾン=90周年に沸く「緑の天国」=(13)=唯一パラグアイからの凄い参加者

上塚芳郎さんとカスタニャール在住の岡島博さん

 上塚芳郎(よしお)さんに、いつから祖父・司の移民事業に関心を持ったのかと聞くと、「本人の死後だ」という。「祖父が生きていた時は大学生で、あまり関心がなくて。山根一眞さんというジャーナリストがブラジルを知りたいと家に来て、それで自分も興味を持ったんですよね」。
 97年に米国のハーバード大学へ留学した際に、秋山桃水さんに会いに、サンパウロ市のリベルダーデまで行った。高拓生会報を読んで興味を持っていたからだ。そこで出会った秋山さんとは上塚司やアマゾンの思い出話、高拓生の消息など様々なことを談笑した。
 98年には、念願のアマゾンへ足を運び、ベレン在住で第3回高拓生の安井宇宙さんを訪ねた。その時に初めてアマゾン地域まで足を運んだ。その後は高拓70周年、80周年、日本人移民百周年の時など、4回ほど来伯。祖父が「第二の日本」を夢見たビラ・アマゾニアにも行き、当時の建物を目にした。
 高拓生の子孫、現在は廃墟となったアマゾン開拓事業の遺産――祖父が開拓事業を始めたアマゾンのその後を、芳郎さんは辿っていった。そして今回も、当日の夜と翌日には、祖父の思いを引き継ぐように90周年式典に参加する。
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 「博多」での歓迎昼食会後、一度ホテルに戻って故郷巡り一行と合流し、パラー州立文化基金(CENTUR)へ向かった。ベレン市恒例の「日本週間・アマゾニア祭り」が、今年は特別にこの場所で開催されている。
 宮城県、北海道、広島県など各県人会の屋台やステージ、生け花などの日本文化の展示が並ぶ。汎アマゾニア日伯協会の伊藤真美事務局長によれば、例年は8千人の来場客が訪れるところ、今年は3日間で1万5千人も訪れたそうだ。
 ベレンは暑かったため、この日は水やビールなどの飲み物がよく売れた。「一緒にビールを飲もう!」と美味しそうにビールを飲む伊東比古さん、「まだ仕事?頑張るねぇ。1杯だけどうですか?」とこちらもグビッとビールを飲む菊地義治さんの誘惑に負けそうになる。
 でも記者はアルコールなんか飲んじゃいけない――と涙を飲んで断り、食べ物のコーナーを見ていると、途中で会った江藤キヌエさんから「私の同室者の話が凄いの。ぜひ取材して!」とお呼びがかかった。何でも、今回の参加者の中で唯一国外から参加しているのだという。

妹の宮川イルダ礼さんと栄田秋実(ときみ)さん

 「夫の仕事の都合で国外に住んでいるけど、私自身はサンパウロ生まれなのよ」。薄い緑色の服を身につけ、眼鏡を掛けた優しそうなその女性は、パラグアイから参加した栄田秋実さん(79、二世)。妹2人がサンパウロに住んでいる。
 今回は、その妹2人が夫婦で参加するのに誘われ、一緒に申し込んだ。「私達の父が第2回高拓生。父のブラジルの故郷を見てみたかったの」と言い、パラーやマナウスに行きたくて参加した。
 これが、江藤さんが言う「同室者の話が凄い」ということなのだろうか。気になり単刀直入に聞いてみると「昔パラグアイのイグアス移住地で殺人事件があって、その家の子どもを引き取って育てたのよ」と静かに語り始めた。(つづく、有馬亜季子記者)