《ブラジル》エドゥアルド下議「左翼が暴れたらAI5」=軍政タブーに触れ大問題に=下院では罷免求める声も=父ボルソナロ大統領も嘆く

エドゥアルド氏(Lula Marques)

 10月31日、エドゥアルド・ボルソナロ下議が、「チリでの民衆デモのようなことがブラジルで起これば、新たな軍政令第5条(AI5)発令などの思い切った措置が必要だ」と発言したことが明るみとなった。軍政時代に政治犯の投獄や暗殺を急増させ、議会閉鎖も招いた、ブラジル政治史でも悪名高い同法の名前を威嚇的な意味合いで語ったことに対しては、連邦議会や最高裁から強い反発が生じ、父親のボルソナロ大統領も遺憾の意を表明した。1日付現地紙が報じている。

 事の発端は、エドゥルド氏が10月28日に、ジャーナリストのレーダ・ナグレ氏によるユーチューブ番組用のインタビューで語ったものが、10月31日に掲載されたことだ。
 エドゥアルド氏はそこで、「森林破壊も原油漏れによる海洋汚染も、全てボルソナロのせいにされる」と語り、「左派が今回のチリでのデモのような騒ぎ方をしたあかつきには、こちらにも用意がある。AI5をやるまでだ」と答えていた。
 この発言が掲載されるや否や、各方面から厳しい批判が飛んだ。
 最高裁ではマルコ・アウレーリオ・メロ判事が「民主主義の破壊だ」と発言し、ブラジル弁護士会(OAB)のフェリペ・サンタクルス会長は「憲法への攻撃行為であり、ファシストにも相当する、受け入れがたい行為だ」と批判した,
 ロドリゴ・マイア下院議長は、「民主主義に対する不快な言動であり、あらゆる機関からの反発を招くのは必至だ」と発言。ダヴィ・アルコルンブレ上院議長も、「民主主義の結果としての、国民による直接選挙で選ばれた議員からこのような発言が出るのはばかげている」と批判した。
 1968年12月に施行されたAI5は、警察による政治犯への暴力行為や検閲などが司法の範疇を超えて容認された法律で、同法が施行されていた1978年までの間は、政治犯の死者、行方不明者が激増している。
 こうしたことから、ブラジル内では、軍政の誕生そのものよりも悪名高いものとされている。
 フェリペ・サンタクルスOAB会長の父親はAI5時代に逮捕されて行方不明となり(その後に殺害されたとの証明書が発行された)、マイア議長一家も同法施行前後にチリに亡命している。
 下院では早くも、労働者党(PT)を中心とした左派政党がエドゥアルド氏の罷免を求めはじめている。マイア議長は罷免には触れていないが、「何らかの処罰はありうる」と語っている。
 エドゥアルド氏の父ボルソナロ大統領も、「AI5は妄想者だけが口にするもの」と語り、息子の発言を「嘆かわしい」と語った。
 エドゥアルド氏は同日午後、謝罪発言を行った。