2018年以降、日本・ブラジル間で金融口座情報が筒抜けに

国外資産を持つ人は要注意の時代に(Foto: Rafael Neddermeyer/ Fotos Públicas)

国外資産を持つ人は要注意の時代に(Foto: Rafael Neddermeyer/ Fotos Públicas)

 今回は資産家向けの話で、コラム子のような一般庶民には、正直言ってあまり関係がない。だが、読者には資産家も企業家もいるので、予備知識として知っておいてもいいかと思い、調べてみた。

 

ブラジル在住者が10万ドル超を日本に持つ場合

 

 まずブラジル側から見た場合は、こうなる。

 ブラジル中央銀行サイト(https://www.bcb.gov.br/estabilidadefinanceira/cbe)によれば、ブラジル在住者が12月31日時点で、日本などの外国に持っている資産が10万ドル(約1100万円)を超える場合は、中央銀行に毎年、CBE Anual申告をしなければならない。

 これが1億ドル(約101億800万円)を超える場合は、3月31日、6月30日、9月30日にCBE Trimestral申告をしなければならない。

 もし申告していなかったことがバレた場合の罰金は、2500~25万レアル、場合によっては50%増額という厳しいものだ。

 

日本在住者がブラジルに5千万円超の資産を持つ場合

 

 続いて、日本側から見た場合だ。

 昨年末、日本経済新聞2019年12月13日付電子版で「海外口座情報189万件を入手/国税庁、交換制度で」という記事を読んだ。

 いわく《国税庁は13日、海外の税務当局と金融口座情報を交換するCRS(共通報告基準)により、2019年分として日本の個人や法人が85カ国・地域に保有する口座情報約189万件(11月末時点)を入手したと発表した。国税庁は富裕層や企業による国際的な税逃れの監視に力を入れており、入手した口座情報は税務調査などに活用する》というものだ。

 日本では、外国に5千万円以上の資産を持っている人は、財産内容を申告する「国外財産調書」を国税庁に提出する義務がある。5千万円は、1月20日現在の為替レートで186万7450レアルだ。この制度は2015年の税制改正で導入された。

 そして2017年からは、日本の国税庁は、「非居住者」(外国に住んでいる日本人)の保有する資産について、移住先の国の税務当局と情報交換を始めた。交換される情報は、口座保有者の氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額などだ。

 

ブラジルも18年から情報交換システムに加盟

 

 表1にある通り、日本は2018年から、ブラジルの国税庁(Receita Federal)との情報交換も始めている。

日本の国税庁が金融口座情報を自動交換している国々のリスト、40番にブラジルも入っている(2018年10月に公開された国税庁資料)

日本の国税庁が金融口座情報を自動交換している国々のリスト、40番にブラジルも入っている(2018年10月に公開された国税庁資料)

 だから、日本国内で確定申告をしている個人や法人で、ブラジルにも186万レアル以上の資産を持っていて個人所得税申告(Declaracao de Imposto de Renda Pessoa Fisica- DIRPF)や、法人所得税申告(Declaracao de Rendimentos da Pessoa Jurisica- DIPJ)をしている場合、2018年以降、その情報が日本の国税庁に筒抜けになっている。

 日経新聞記事にある《海外の税務当局との金融口座情報の交換》というのは、そのことだ。

 2018年10月に日本の国税庁が出した資料(https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/001.pdf)によれば、この時点で58カ国と情報交換を行っており、最終的には100カ国程度がこのシステムに加盟することになる。

 これは世界の租税回避地に隠された資産を探し出して課税することを目的として、OECD(経済協力開発機構)が始めた取り組みだ。

 日本は世界に冠たる金満国であるにも関わらず、2016年時点で国外財産調書を提出した人は、わずか9千人程度しかおらず、相当数の「海外での資産隠し」が行われていると国税庁は疑っていた。

 日本の国税庁は、この金融情報の自動交換が始まった2017年以降、毎年、冒頭記事のように躍起になって世界中の「隠れ資産」を探している。

 その結果、昨年末時点で189万件もの海外の口座情報が、日本の国税庁で共有され、日本国外に5千万円以上の資産を隠していた個人・法人に、次々に追加課税をしている。

 

〃余計な心配〃しないのが一番の幸せ

 

 具体的なケースとしては、たとえば次のような人が該当者として考えられる。

 戦後移住者の場合、親が死んで日本で遺産相続をして1100万円以上の価値がある土地や家屋、株などの金融資産をもらったら、これに該当する。すみやかにブラジル側の会計士などに相談して、適切に処理することをお勧めする。

 またデカセギの場合でも、日本で家を買って確定申告をしている人が、実はブラジルにも186万レアル以上の価値がある土地や家屋や金融資産を持っていたり、後から相続した場合、これに相当する。これは居住している日本側でも申告したほうが良さそうだ。

 とにかく、2018年以降、ブラジルと日本の国税庁は、自動で金融口座情報を交換している状態であることは意識していた方が良い。

 資産家は「財産を持っている」がゆえに心配が絶えない。だが読者の大半はコラム子と同様に、ブラジル側に5千万円相当の財産、日本側に10万ドル相当のどちらも持っていないのでは。

 こんな時ぐらいは、「懐が寒い」方が〃余計な心配〃をしなくても良いので安心か?!(深)