井戸を掘った人達を忘れるな

 15~16日に開かれたサンパウロ州最大のカラオケ大会「パウリスタン」の開会式で、憩の園の佐藤直会長が、「入居者の多くは現在の日系社会の基礎を作って下さった方達」という趣旨の発言をされたのが心に残った▼日本移民112年だから、今年が100周年にあたる県人会もあるだろう。ブラジル到着60周年を機に、幕を閉じるという同船者会もある。各先人達が、想像を絶する苦労をしてこられた事などを思うと、熱いものが胸にこみ上げてくる。ブラジルで暮す日本人や日系人にとり、一世や二世が苦闘の末に築いてくれた日系社会の存在は大きく、日本語や日本文化の重要性とそれを伝えていく必要性を感じる事も多い▼9日に開催された、日本人移民顕彰のショーは、回数を1回増やして会衆の求めに応じた。近所の日本人会の方からも、演芸会では敬老の対象となる大先輩達にもなじみのある曲を歌うといった配慮が出来ないかとの声が上がっている。この日本人会ではイベントの際に先人達の写真展示を行うなど、それなりの敬意を表していると思っていたが、ご本人達は新しい曲ばかりが歌われるなど、寂しい思いをしておられたのかと気づかされた事だった▼先人達の業績などについて考えていた時、中学生の頃に読んだ「水を飲む時は井戸を掘った人の事を忘れてはならない」という言葉を思い出した。アフガニスタンで銃撃された日本人医師の中村哲氏は、砂漠化した土地に水を引き、現地の人々にとり、忘れられない存在となった。目に見える井戸や水路はなくても、先人の苦労や業績、恩を思い起こす機会はそれなりにあるはず。折りに触れて感謝と敬意を伝えたいと、改めて思う。(み)