新型肺炎がブラジルにも上陸=「中国カゼ」で景気はどうなる?=聖市在住 駒形 秀雄

漢口西北湖地区の夜景(拼却的一醉)

 今年1月、中国の武漢市で発生した感染症・新型コロナウイルスは短期間に拡大し、世間でもこの正体のハッキリしない「中国カゼ」の話題で持ちきりです。
 本家の中国では既に8万人の痢患者、3千人以上の死者を出しており、これが韓国=感染者5千人、日本=感染者3百人(クルーズ船除く)を始め、イタリア、イランなど世界50カ国以上に拡散しています。これからどうなるのか? 人々が心配するのも無理からぬ所と言えます。
 「中国カゼ」の医療面については別の専門家に解説を御願いするとして、それが私たちの実生活に、経済面にどんな影響を及ぼしてくるのか、景気は変わるのか、は誰でもが知りたいところです。
 この疾病の実態がまだ十分つかめていないのに、その経済的影響までを知ることは中々難しいです。とはいえ、以下、素人なりにこの判断のためのデータを種々揃えてみました。皆様とご一緒に考えてみたいと思います。
 武漢市(WUHAN)は中国内陸部にあって、ここの野生動物市場から今回の「中国カゼ」、コロナウイルスが発生したとなると、民度の低い、衛生設備も不十分な街を想像するかも知れませんがトンデモナイ。
 実際は世界的大河、長江の中流に位置する人口1千万人強の近代都市(写真)です。同地には各種の歴史的遺構のほか、多数の工業、大規模商業施設もあり、医学系の研究所、大学などもあります。
 日本の企業も200社ほど進出しており、ホンダ、ニッサンなどの自動車や部品生産の他、銀行、イオンなど多くの企業の現地企業が活動をしております。ブラジルで言えば、サンパウロ市に相当する街を想像して下さい。なお、武漢という名称は旧、武昌と漢口という名前から合成したものだそうです。

 下落する相場

マスクをする男性

 新型カゼの感染拡大に伴い、中国当局は病源地帯(武漢市)の隔離、交通遮断を行いました。結果として社会活動は低下、生産のストップが起こります。世界中から原材料を買い集めている中国経済の停滞、それによる原材料貿易の減少を受けて、そのコモディティ商品の取り引き市場、(ニューヨーク、シカゴ等)で該当商品の価格が下落します。
 ブラジル輸出の鉄鉱石などは昨年95ドル/トンだったものが急落、今年は70ドル/トン程度になると見られています。その最大の理由は世界最大の10億トンもの鉄鋼生産国中国の需要が減ると見られるからです。
 同様にブラジルの重要輸出品、大豆、原油などの相場も下落しているのです。これらコモディティ商品の価格、数量の減少はブラジルにとり収入減、大きなマイナス因子となります。
 証券(株)市場もこのような動きに敏感に反応します。先日、ニューヨーク市場の平均株価は1週間で3500ドルも下げ、関係者を驚かせました。この下げ幅は先年のリーマンショック以来の記録的下げだったからです。株はその後も何か理由があると乱高下を繰り返しています。
 ブラジルの証券市場もアメリカ相場に追随する傾向があります。具体的にはVALE(鉄鉱石)、CSN(鉄鋼製品)、SUZANO(パルプ)などの輸出関連銘柄は何れも似たような値下げに直面しております。これら値下がりは各企業の財務内容を悪化させ、株主の皆さんにもご心配を掛けているものと思われます。

 部品が来ない

薬の参考写真

 「中国カゼ」のお陰でもう一つ困ったことが起こっています。それは中国製の部品供給が止まったことです。「中国は世界の工場」と言われており、世界各地のメーカーに部品を供給していました。
 ですが、この部品提供を受けていた外国の企業は自社の製品を完成できなくなり、操業停止となったのです。韓国、日本などでは車、家電の生産に影響が出ています。
 ブラジルの家電機器メーカー、聖州タウバテー市にあるLGの工場が部品供給が足りずに操業停止しました。
 今後、部品供給が長い期間にわたって停止すると、さらに深刻な被害がでると予測されています。
 話は飛びますが、以上のような産業への悪影響を反映して、ブラジル通貨レアルの対米ドル相場もどんどん下がっています。金融市場では利益目当てで入っていた外国資本の引き揚げ(もっと利益の出そうな地域への転出)も目立っています。
 こうしてレアル相場は下がるばかりで、現在4・65レアル/ドルという水準にまでなっています。今まで一生懸命働いて、年もとったし、ここらで日本見物でもしようかと計画していた皆様には何ともお気の毒なことです。

 経済はどうなる

 経済協力開発機構(OECD)では、年に何回か世界経済の状況を調査公表していますが、今年度については全体を【表1】のように下方修正しています。
 ご覧の通り、今年は世界経済全体が伸び悩みです。その原因は「中国カゼ」以外にトランプさんが始めた「米中貿易戦争」など色々ありますが、この平和の世の中に、とに角マイナスというのではガッカリしますね。
 それにしても日本株が連日急落しているのは、どんなものでしょう。TVなどで安倍さんの活躍などを「日本も良くやっているな」という印象も受けるのですが、数字で見ると結果は歴然、「さくらの会などを何時までも議論していて良いのか!」という気にもなりますね。

 対策はあるか

 この様な事態に対して、国連、WHO(世界保健機構)、OECDとか各種機関で対策を協議しています。疾病に対する施策と別に、経済面については最近のG7主要7カ国会議でも取り上げ、およそ次の様な意見が出されています。
 「各国で景気を下ぶれさせないような施策を講じる。即ち、
(A)金利引き下げを含む金融面の振興策をとる。
(B)公共投資を増やして金廻りを良くする」
などです。
 米国では連邦準備制度理事会(中央銀行)が早速公定金利を0・5%引き下げ、1%~1・25%にすると発表しました。日本やブラジルでも公定歩合(金利)を引き下げたいのですが、もう下のほうのギリギリまで来ていて、このままではお金を預ける方が手数料(逆金利)を払うようになります。
 また、公共投資(政府が新しい道路や建物を作る)を増やそうにも、肝心かなめのお金がありません。考えとしてはその通りですが、その実行は簡単でないようです。
 さて、以上のような施策について横丁に住む八郎さんに聞いてみました。曰く、「公定金利を0・5%下げるだの何だのと言ったって、こちとらには関係ないね。それより銀行から借りたり、店の買い物で取られる100%もの実際の金利を何とかしなくちゃね。これを下げるのが本論だろ」でした。
 こんどは同じく久間さんの意見です。「カゼのために偉い政治家が大勢集まって何をどうするんだろ。この問題の大本は新型の病気だろ。経済対策協議よりも、その基の病気を治すことが第一だ。破裂した水道管をそのままにしておいて、溢れた水をひしゃくで搔い出そうとしても、問題解決になりませんね」でした。
 その病気根絶の対策ですが、今のところは特効薬も免疫の予防注射もないとのことです。既に流行した似たようなカゼのための薬を今の患者に試したり、対症療法をしているところだそうです。
 それが出来るまでは私達に出来ることは、とに角、他人からうつされない様にすること、手を良く洗う、やたらに人に抱きつかないなど、だとのことです。

 どうしたら良いか

 「中国カゼ」防疫に日本は真剣に取り組んでいます。首相や各県知事が先頭に立ち、学校を一斉休校にしてしまったし、会社などには従業員に在宅勤務を推奨しています。大勢の人の集まる催しを自粛、中止させ、ファンが多い高校野球や大相撲まで「観客無しの開催」となりました。その実際の疫学的効果は別として、国民に対して「今は感染症が広がるかドウかの土俵際です。ガンバリマショウ!」と緊張感を引き出す効果は大いにありますね。
 一方、ブラジル当局者の対応はこれと対照的です。保健大臣がユッタリトした口調で話します。「コロナウイルスが流行りそうですが、皆さん、神経質になることはありません。コロナウイルスにかかっても80%の人は軽症で治ります。それに我が政府はこの感染症に対する十分な備えがあります。過分に心配することはありません」です。
 「日本ではウイルス検査の設備、人員が足りないと騒いでいるのに、ブラジルは本当に大丈夫なのかな」と言う気にもなりますが、まあ、現実に病気になるまではラクチンで居られるのですから、このやり方もまた「安心」かもしれません。
 以上、有るがままの事実を挙げて来たら、どうもパッとしない、景気が悪くなるような話ばかりになりました。これは病気や業務縮小の話なので、そうなるのも又止むなし、で御了承下さい。
 一方、発生源の武漢では新規罹患者の比率が減って来ている、流行も頭打ちになったのでないか? また中国全体が停滞してるかのように報道されて来たが、これも8割方は前どおりの活動に戻ってきている、とも言われております。
 5月に予定されていた習主席の訪日も日中双方に利益になる(ウィンウィン)話、成果が期待出来ないと成れば、政治家としては「では又、次の機会に」となるのも当然でしょう。
 7月開催の東京オリンピックは国際オリンピック委員会(IOC)会長、東京都知事も「断固やる線で準備を進めている」と言っているのですから、主催者側からの中止はないでしょう。
 でも観客なしの開催では味気ないし、関係団体の損害も甚大です。コロナウイルスの制御次第ですが、時期はずらしても開催となるのでないでしょうか。
 これらのことは我々ブラジルコロニアが気を揉んで議論しても始まらないことです。ここは、実効面は日本式に「カゼを引かないよう十分な措置を講じる。十分手を洗う。人ごみを避ける。美人が居たからと言ってやたらにアブラッソしない」と心がけましょう。
 加えて、気持ちの方は「ブラジル式で慌てない。今までもナントカカゼがあったが今、皆生きてるじゃないか。過ぎない流行なんかない。ノン・テン・プロブレマ」と平静に対応するというのはどうでしょうか。(ご意見歓迎します。連絡はこちらへどうぞ=▼hhkomagata@gmail.com