ウイルスはどこから来たのか=サンパウロ市在住 遠藤永観

マスクをする男性(参考写真)

 「人間も自然の一部」の文明に還ろう――世界中の人々が毎日、戦々恐々としている。
 にもかかわらず、大自然を現わしている神は愛深い目で人々を見ている―――去る3月8日、ある団体での式典で日本の代表者が新型肺炎、コロナウイルス感染発生のしくみを淡々と述べているのを聞いて、このような感じを抱き、だいぶ安堵の胸をなでおろした。
 式典にはおよそ500名ほどの聴衆が来ていた。その大要は次のようである。
 生物界には生命の法則があり、常識では生物界は弱肉強食の世界と教えられているが、それはそもそも間違いであり、人間は永い間、人間至上主義の生き方を続けているために今、大きな地球環境問題を引き起こしている。
 その考えを改め、人間も自然と共に伸びる生活を営み、自然をこれ以上破壊するのを止めなければならない。
 現在のコロナウイルスの感染拡大は、人間に重大な示唆を示している。感染拡大の原因はウイルスや元となった動物の側にあるのではなく、人間の側にあるという。
 感染元とみられる動物には、せんざんこうやコウモリがあがっているが、それらは中間宿主で、もともとウイルスを体内にもっていて、それと共存している。
 動物はそれにより病気などにはならないで平和共存している。このようなことは自然界には多く見られ、人間にも沢山の細菌が住んでいて、それらとは共存している。
 このように自然界はいたるところに共存共栄のバランスがみられるが、それが自然の急変や人工的行為で崩れると、生物間でそれぞれの生存を守ろうとして互いに傷つけあうことが起こる。
 人間はより多くを食用にするために、動物を自然状態から隔離して多数を狭い所に囲んで育て、屠殺している。それが食肉産業となっている。これは人間至上主義の考え方から生ずるが、そこでは動物の悲しみや苦しみは全く無視されている。
 人間本位の役割を強制した自然侮蔑の心の現れであり、式典の団体はもともと「生命を礼拝し、生命の法則に随順して生活することを信条とする」のでこの肉食を止める運動をしているという。
 しかし、家畜を殺して食用にすることは長年やってきているが、感染拡大で疑われているのは食用にした野生動物である。なぜそこから問題が発生したか。

世界中に感染が広がっているコロナウイルス

 なぜ家畜動物に棲むウイルスや細菌は、人間に感染して病気を発症しなかったのか。同代表が上げた英誌「ニューサイエンティスト」2月8日号では、英国の教授が「動物からくるウイルスたち」の中で、人間以外の動物に棲むウイリスや細菌は、大方が人間に無害であるが、ごくわずかな割合のものは人間にも感染し、通常でも毎年270万人を死なせているという。
 その最も強い例が、感染したらほぼ死に至るエボラウイルスだ。致死率の高さは、体内でウイルスに対する免疫ができるか否かにかかっているという。
 本来の自然のままで、人間が動物と一定の距離を置けば、ウイルスや細菌の感染は起こらない。だが、人間が動物の生存圏をむやみに侵して近づく。肉食の習慣の拡大や森林の破壊で動物の棲み処や食物を奪う。
 日本などでは特に問題になる、山野の動物が人家近くに出没することもその一つだ。前述の「生命の法則に随順して生活する」というのは、人間や動物が互いに相手の生存圏を侵さないで一定の距離を保つということも含むという。
 同代表は今回の感染症の拡大は人間至上主義に陥り、おくべき動物との距離を守らず、それらを無謀に利用、または抹殺してきた古い文明のあり方に対する警鐘であるとし、あらゆる生命を礼拝し、生命の法則に随順して生活する新しい文明を築く運動を進めていくと結んでいる。
 これを書いている途中、Eメールで入ってきたニュースでは、中国の北京農業大学で動物のクローン研究をしていた教授が永年の間、実験に使った動物をしかるべき所に返送せずに食用市場に横流しし、多大の収益を得ていたことが判明し逮捕されたという。その中には今回の疑いがもたれた動物も入っていたかもしれないとの含みも伺える。